すべてが猫になる

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顔に降りかかる雨  (ねこ3.8匹)

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桐野夏生著。講談社文庫。

親友のノンフィクションライター宇佐川耀子が、1億円を持って消えた。大金を預けた成瀬時男は、暴力団上層部につながる暗い過去を持っている。あらぬ疑いを受けた私(村野ミロ)は、成瀬と協力して解明に乗り出す。二転三転する事件の真相は?女流ハードボイルド作家誕生の’93年度江戸川乱歩賞受賞作!(裏表紙引用)


ミロシリーズの第1弾。
このシリーズを衝撃の『ダーク』から読んでしまい皆さんから批難ごうごうの嵐だった事は記憶に新しい。全く共感出来ない破天荒な女探偵ミロが、初めはどれぐらいまともさを残した女性だったのか、期待満々で読んでみました。

というか、読み始めるとミロの事よりお話の面白さに惹き付けられてしまった。一億円を持って行方不明になったという耀子の準禁治産者的な人格も凄いし、ミロを脅迫するヤクザの上杉や、三下の君島、耀子の夫である成瀬の迫力も普通じゃない。メインキャラクターの個性の強さに負けていない、性倒錯者、死体写真愛好家、似非占い師の登場などなど、題材も広きに渡っていて普通のハードボイルドの範疇にはおさまらない気さえする。ミステリとして二転三転する展開も手に汗握る上質な仕上がり。
自殺した夫を胸の中へしこりとして残しながら、移ろって行くミロの心。それでも友人を信じ、巻き込まれた立場に弱音を吐きながらもその足取りは力強い。
桐野さんが、乱歩賞という枚数制限の縛りの中でありとあらゆる才能を凝縮しきった読みごたえたっぷりの良作。

ただ、やはりミロ自体は好きにはなれない。。こういう「愛しようのない女(作中引用)」が恋愛要素をぶち込むとどうも生理的に受け付けないんだよなあ。。動物っぽいというか。。これは自分がハードボイルド向きではないという事を抜きにしても、やっぱり「ダーク」のあの落ちぶれっぷりを知ってしまっているからかも。。これは「学園祭の悪魔」を先に読んでしまった安藤直樹ファンの気持ちに匹敵・・・しないか。

                             (396P/読書所要時間3:00)