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トンコ  (ねこ3.5匹)

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雀野日名子著。角川ホラー文庫

高速道路で運搬トラックが横転し、一匹の豚、トンコが脱走した。先に運び出された兄弟たちの匂いに導かれてさまようが、なぜか会うことはできない。彼らとの楽しい思い出を胸に、トンコはさまよい続ける…。日本ホラー小説大賞短編賞を受賞した表題作をはじめ、親の愛情に飢えた少女の物語「ぞんび団地」、究極の兄妹愛を描いた「黙契」を収録。人間の心の底の闇と哀しみを描くホラーの新旗手誕生。 (裏表紙引用)


『トンコ』
なんてことはない、ただ食用豚が逃げる間の”豚心理”を描いたただそれだけのお話。
なんだか「ドナドナ」が頭の中をエンドレスで流れます。。
哀愁の中に漂うコミカルさがホラー文学であることを主張している不思議な効果を狙った作品。文章も流暢でなかなか面白味があります。

『ぞんび団地』
実の母と、義理の父に虐待されている「あーちゃん」。近所にある”ぞんび団地”で、家族仲良く暮らしたい、それがあーちゃんの切実な願い。。。
発想や設定だけでも、水準並の面白さ、技術を感じさせます。ぞんび=死者である事をまだ理解出来ていない年齢のあーちゃん。その視点が恐怖させるポイントであり、敢えて表記を平仮名にしているのも無邪気さを表現しているとすればレベルは高い。
が、読んでいてこれほど胸が痛い話もない。あんまり語りたくない。

『黙契』
両親のいない兄と妹。東京で夢を叶えたいと上京した妹が、腐乱した首吊り自殺体で発見された。。
死体の描写がえげつなくグロいです。。。3作品中では限りなく「普通」に近いホラー作品。今までの語り手が豚、子供だったからね。
よく作り込まれたお話で、読ませます。妹の淋しい心と、兄の懺悔の気持ち。どちらを取ってもやりきれない、なんとかなったはずの事件。


以上。
いきなり各感想から入りました。実は、評判の割に自分にはあまりピンと来なかったのです。。作者の雀野さんはホラーが苦手だそうですが、2話目3話目を読むとそれは嘘です(笑)。こんなに生き生きと怖いお話を描けるホラー嫌いがいるもんか^^;
どの作品もお話のまとめ方やテーマがしっかりしていて、確かに面白く実力派ではあると思うのですが、ビビッ!と来る要素がなかったと言いますか。
まあ、長編賞の「生き屏風」も買ってあるのでそちらも楽しみに。

                             (239P/読書所要時間2:30)