すべてが猫になる

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風に舞いあがるビニールシート  (ねこ4.3匹)

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森絵都著。文春文庫。

才能豊かなパティシエの気まぐれに奔走させられたり、犬のボランティアのために水商売のバイトをしたり、難民を保護し支援する国連機関で夫婦の愛のあり方に苦しんだり…。自分だけの価値観を守り、お金よりも大切な何かのために懸命に生きる人々を描いた6編。あたたかくて力強い、第135回直木賞受賞作。 (裏表紙引用)


いい意味で期待ハズレ。
あったかいもんだと思ってました。著者の他作品のイメージ(読んだ事ないけど表紙とかタイトルとか読者層とか)で、きっとこの作者はほのぼのとしたあったかい、綺麗な癒し系の作品を描いているのだろう、と勝手な想像をしておりました。
それが全くの見当違いというワケでもなかったのですが、作風や題材的には現実に地の着いたものが多く、何かにこだわりを持つ大人が紆余曲折を経て前に進んで行くというパターンが嫌味にならない程1作1作作り込まれており、バラエティに富んでおります。

『器を探して』
才能はありながら周囲を困らせる上司に翻弄させられるOLのお話。恋人に「俺か仕事かどっちを取るのか決めてくれ」と言わせる主人公。やっぱり恋愛ものなのか、とさぶい気持ちになりつつ、華やかではないけれど下で支える仕事の魅力、が伝わって来ていい作品だと思います。

『犬の散歩』
ボランティアで犬を預かり里親を探す活動をする傍ら、夜は水商売に従事する女性。彼女の夫も理解を示してくれている。自分は施設で捨てられていた子猫を保護した経験はある程度に動物好きではありますが(ねこ限定かも^^;)、正直主人公のような活動を精力的になさっている方々とは一線を引いております。角が立つので理由は述べませんが、積極的に共感しまくれる作品ではなかったです。が、
この感動パターン、実際に現実でも往々にしてあるんですよね~^^うちの兄がいい見本。

『守護神』
社会人限定で、レポートの代筆をしてくれる女生徒がいる。その噂を聞いて、フリーターの裕介は勇んで当の本人を探し当てたが、けんもほろろに突き放されて。。
フリーターと言っても若いんだし、働き者だし、文学に精通してるし、主人公に悪い印象は受けませんでした。趣味が合コン、というの以外は。
この作品あたりから、かなり森さんへの印象が変わりました。小手先で描けるお話ではないと思う。

『鐘の音』
25年ぶりに元の職場へ戻った仏像修復師。いきなり作風が苦手分野に入ったので目がしぱしぱしました^^;が、奥の深いお話です。仏像にここまで入れ込めるのがいいね。暴走する面もあるけれど、
彼が見た夢と、ラストの真実、どちらも間違いじゃないと思います。

『ジェネレーションX』
出版社に勤める40歳の野田と、玩具会社新世代の石津。顧客のクレーム処理の為にタッグを組んだ二人だが、石津の傍若無人ぶりに野田は戸惑いを隠せず。。
わははは、こりゃいいや^^スカッと爽快、誰が読んでもいい話です。仕事中に私用の電話をしまくる石津にびっくりですが、その会話から思いも寄らぬ展開に。こういう切れ味の良いお話は大好きですね。

風に舞いあがるビニールシート
UNHCRー国連難民高等弁務官事務所。世界紛争など現地へ赴き難民の保護活動をする機関。そこで勤める里佳と、上司であり元夫のエド。まさかこんな重い題材だとは思ってませんでした。夫婦間の恋愛感情など、プライベートに重きを置いたお話ではありますが、これほど沢山の参考文献で勉強をされた森さんは素晴らしいと思います。こういう仕事に携わり、全うする事が信念となっている方々が結婚してはいけない、とはならないと思いました。彼らには肉親がいるはずですから。
日本でどんな不景気な話を聞いても、理不尽に親に殺された子供達以外のどこでも私達のビニールシートが舞いあがる事なんてないんだろうな。


以上。
こういう作風ばかりではないのでしょうが、この作品集に関しては手ばなしで賞賛したいと思いました。作者の考えや知識を述べるただそれだけではなく、エンターテインメントに仕上げる事こそがプロの役割なのだな、と今更実感しました。

                            (333P/読書所要時間3:00)