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この世界、そして花火/This World, Then the Fireworks  (ねこ4匹)

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ジム・トンプスン著。扶桑社ミステリー文庫。

マーティが帰ってきた。母と妹のもとへ。双子の兄妹であるマーティとキャロルには、幼い日の鮮烈な記憶があった。4歳の誕生日、父がショットガンで愛人の亭主の頭を吹き飛ばし、とばっちりで母も散弾を食らったのだ。マーティとキャロルは、そのあまりのおかさしに笑い転げた―それ以降、2人は特別の関係で生きてきた。そして、いま…暗黒小説の真髄を見せつけ、映画化された表題作をはじめ、最初期から死後発掘された遺稿まで、ノワールの帝王トンプスンの中短編を集めた、本邦初の作品集。 (裏表紙引用)


恥ずかしながら全く知識のない作家さん。文庫新刊コーナーうろちょろしていたら、ふとこの表紙と帯が目に止まった。”ノワール作家トンプスン””「このミス」1位作家トンプスン””暗黒小説の鬼才”・・・。の、のわーる!?じゅるっ。そしてあらすじを読み、”父が愛人の亭主の頭を吹き飛ばし、母も散弾を食らった。マーティとキャロルは、そのあまりのおかしさに笑い転げたーー”の部分で即買いを決めた。(←おかしい)扶桑社棚に長編も見に行ったのだけど、短編集はこれしかないみたい。もうほんとに、久々に死ぬかと思うほどわくわくしながら早速読んでみました。

『油田の風景』
これは油田労働者ジェイク・ファナー、ビッグホール・ベン、はげのシールブリッジ三者三様のあるひとコマをそれぞれ数ページずつ収めたもの。配偶者がおはようと言っただけで離婚してしまうジェイク、一定以下の大きさの穴が掘れずに失職を繰り返すベン、いいやつなんだけどどこかズレていて不幸になってしまうシールブリッジ。いや~、凄い面白いわこれ。何がって、視点が。これ、文章じゃなかったら何が起こっているのかわからないもの。

『酒びたりの自画像』
これは作者の過去を投影したものなんでしょうか。いやはや、死後やっと作品の再評価をされたというトンプスンですが、凄い壮絶な人生ですね。才能だけはあって良かったよ。。

『システムの欠陥』
なんかSFっぽいし、なんか着眼点がヘンです。クレジット会社で、到底受理出来ないような無職の客が現われて、スタッフがそれを受けてしまうというお話。エスパーとかそんな話じゃないですよ、なんでもマニュアル化機械化された人類への糾弾といったところでしょうか。

『四Cの住人』
数ページの掌編です。上の住人がうるさくてノイローゼになりそうな夫。。
うひゃー^^;こんなブラックなオチだったとわ!!^^;最初にありきたりな状景を見せ、疑いの粉を振りまきながら予想外の結末へと導いて行く。。。

『永遠にふたりで』
ぎえー^^;;
こりゃ、ホラーですな。しかもかなり趣味の悪い。。
のわーるといふものは、生者にも死者にも残酷なんですねえ。夢に出そうなラストシーン。男性の皆さん、女性を殴ってはいけません。

『深夜の薄明』
すすすすすごいお話です^^;
なんだかめちゃくちゃな感じ。悪徳警察官にいいようにされている夫婦。この夫、精神的になんだか終わってますね。。他人に厳しく自分に甘い。彼らの悲惨な現在と、どうしてそうなるに至ったかが時系列を逆行して描かれているのですが、過去も悲惨現在も悲惨、いいとこなし。自業自得。このカップルも出会い方からして普通じゃないし。どうせハッピーエンドにゃなるまいて。
さあ、どう収拾をつけますかトンプスンさん!!

あれ?終わった。。このお話結局どういう意味?と思い、ふと次の行に目をやったら。

『(未完)』・・・・・・。。。。。

ぎゃーーーー!!!!!ゆきあやのこの胸のもやもやをどうしろと!?


『この世界、そして花火』
表題作です。「ファイアーワークス」という題名で映画化されたそうです・・・って、ココココレを映画化!?^^;:
いやはや、幼少の頃のトラウマがでかく、大人になってからも世間と大幅にズレている兄妹。貞操とか、倫理とかが全く存在しない視点で描かれた作品。子供の頃にあんな現場見ちゃったらねー、人格形成にねー、とかそんな通ぶった感想なんて描いてる場合じゃないですよ。出て来る女性警察官、ロイスもかなりイカれてますし。。もうやだこの人達(><。)。。


ふー。いやあ、面白かった。暗黒小説、いいですねー。
ケッチャムまで行くとついて行けないので、自分にはこれぐらいがちょうどいいかも。実際的な暴力シーンや残酷シーンは控えめで、精神的な暴力を振るわれてる感じがする(^^;)。主人公達が、同じ地平に生きているという感じがまるでしない。輝いている人間が一人も出て来ない凄い小説です。
特に男性キャラでここまで荒んでいるものって珍しいんじゃないかな。。
もう新刊は出ないみたいなので、来月長編大人買いして来ようかなー^^

                             (288P/読書所要時間2:30)