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萩原重化学工業連続殺人事件  (ねこ3.6匹)

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浦賀和宏著。講談社ノベルス

「脳」を失った死体が語る、密室の不可能犯罪!双子の兄弟、零と一の前に現れた、不死身の少女・祥子と、何もかもを見通す謎の家政婦。彼らが信じていた世界は、事件に巻き込まれる内に音を立てて崩壊していき…。脳のない死体の意味とは!?世界を俯瞰する謎の男女と、すべての事件の鍵を握る“萩原重化学工業”の正体とは!?浦賀和宏の最高傑作ミステリが世界の常識を打ち破る。(裏表紙引用)


純菜シリーズでファンを絶望の淵に追い詰め、普段は点の甘い我がすべ猫でも1点台がお約束だった浦賀氏の待望の新作。
ファンの皆様、朗報です。面白かった。面白かったよ。
初期安藤シリーズのような”脳”をテーマにした世界観と、胸催す陰惨な連続殺人事件。ちょっと謎ありの好青年に、清純で幸薄いヒロイン。本作ではあからさまに作者のクローンを思わせるような自虐的で自己中心的なキャラクターは配しておらず、登場する刑事達や友人達もいたってまとも。人の心が読める家政婦や宗教的な小説家が物語を動かす役割を担っており、それらに動かされるメインキャラクターと言う仕組みで読み始めると、なかなかに盛り上がるかもしれない。

文章に関しては、上手くなろうという意気込みが見える。しかし、すべてのキャラクターの内面を細々と語り継ぐクセは直っているとは言い難い。主人公や周囲の動静を読めば読者には語られずとも悟れる事で、これをキャラクターを掘り下げる、とは決して言わない。もう少し、”行間を読ませる”という小説としての基礎を習得してもらえればと思う。読者を信頼して下さい。

ミステリ的にもなかなかバカに出来ない。宇宙、電波という浦賀作品ではお馴染みの題材を扱っているので期待しませんでしたが、大規模な世界観の中にここまでの論理を取り込めた事には拍手を贈りたい。(ただ、浦賀和宏という作家の作品として考えての評価なので、一般的に傑作ではない)

これはシリーズになるのかな?この分厚さで、「坂東製紙工場連続殺人事件」とか「宇佐見アドバンス連続殺人事件」とか7作くらい出してもらえるとなかなかカッコイイんじゃないか^^