すべてが猫になる

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放課後  (ねこ4匹)

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東野圭吾著。講談社文庫。

校内の更衣室で生徒指導の教師が青酸中毒で死んでいた。先生を二人だけの旅行に誘う問題児、頭脳明晰の美少女・剣道部の主将、先生をナンパするアーチェリー部の主将ーー犯人候補は続々登場する。そして、運動会の仮装行列で第二の殺人が……。乱歩賞受賞の青春推理。(裏表紙引用)


乱歩賞、デビュー作(ですよね?)、の割にあまりファンのいい評価を聞かないなあ、と思っていた作品。いやいや、おいらには相当面白かったです。
トリックそのものは設定を見ただけで何を使ったか予想が付きやすいのですが、密室ものでありつつもトリック一発勝負というミステリーではなかったのがまず良かった点ですね。スタンダードなタイプの謎解き小説として懐かしさが湧き、感心しました。

一つ思いつきで感じたのですが、キャラクターが描けているだけに、倫理観のおかしい教師や世代ならではの少女達の心理が読者のそれとズレた時、反感を抱いてしまう。本作ではそれが長所となったのではないかと思います。主人公の前島は、なんと配偶者である妻に当然のように堕胎を促します。今はその時期ではない、というのが彼の言い分ですが、結婚していて子供を中絶させるという発想はこの時代なら珍しくはなかったのでしょうか??夫婦共に健康体であり、しかも職業は公務員ですよ。。実は80年代の有名な漫画で、結婚している夫婦が夫の要望で3度中絶をする(理由は同じ)というものがありました。自分からすれば「なんでやねん」としか言いようがなく。。いや、中絶率が昔より増えている減っているという問題ではなく、小説として、こういう主人公を「まともな語り手」として据えるというのはやはり時代なのかなあと考えたわけで。
まあそういう不満を一つだけ抱えつつ読んでいたわけですが、ラストまで読むと決して作者が無神経であるがゆえの設定ではなかったのだな、という事が分かります。溜飲が下がった、とまでは言いませんがテクニックの一つであったのかも。

話は戻りますが、殺人の動機については腑に落ちるものでした。行為そのものはアサハカですが、その堪えられない心理は想像力が芽生えれば同調出来るものです。でもここは賛否両論ありそうですね。ただ、自分が一番評価するに至った点はここでしたし、東野圭吾は最初から東野圭吾だったんだねえと妙な感慨にふけってしまったのは事実ですね。