すべてが猫になる

ヤフーブログからお引越し。

ガラスの麒麟  (ねこ3.6匹)

イメージ 1

加納朋子著。講談社文庫。

「あたし殺されたの。もっと生きていたかったのに」。通り魔に襲われた十七歳の女子高生安藤麻衣子。美しく、聡明で、幸せそうに見えた彼女の内面に隠されていた心の闇から紡ぎ出される六つの物語。少女たちの危ういまでに繊細な心のふるえを温かな視線で描く、感動の連作ミステリ。日本推理作家協会賞受賞作。(裏表紙引用)


六編収録の短編集ですが、全ての物語が”安藤麻衣子”刺殺事件を発端としたもので、ほぼ長編の体を成しています。まだ高校生の少女がこの世にどれほどの未練を残して死んで行ったのだろう、そして彼女の死がどれほどの人々に影響を与えただろう。そればかりを考えてしまう作品でした。この年代の少女たちの残酷さや脆さが浮き彫りにされていて、ただ悲しいだけではない毒と真実も描かれているところはさすが加納さんですね。さらに、いびつな心の様をあえて温かい目線で表現するところも加納さんならではという感じがします。
今思うと、自分は10代の頃の方が死を考えたり(本気でじゃないよ^^;)、辛い毎日を送っていた気がします。ほんとに今思うとちっぽけで贅沢な理由なんですが、誰しも自分が嫌になったり未来が見えなかったりした時期ってありますよね。むしろ老けまくった今の方が、色々見えてしまったがゆえに死んでたまるかという気持ちが強いような。世の中自分の思い通りには絶対ならない、って何百回も思い知ってこそしぶとくなれるような。

評価としては、他の加納作品に比べたら実は印象は薄かったかも。ミステリ的にも技巧が優れているし、作品としても完成している良い物語なのだけどね。それだけだと何か一つ物足りないかな。