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儚い羊たちの祝宴  (ねこ4.3匹)

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米澤穂信著。新潮社。

ミステリの醍醐味と言えば、終盤のどんでん返し。中でも、「最後の一撃」と呼ばれる、ラストで鮮やかに真相を引っ繰り返す技は、短編の華であり至芸でもある。本書は、更にその上をいく、「ラスト一行の衝撃」に徹底的にこだわった連作集。古今東西、短編集は数あれど、収録作すべてがラスト一行で落ちるミステリは本書だけ!(あらすじ引用)


姉貴とよもさんの記事とやり取りを事前に拝見していて、帯の文句についてある程度意識はしていた。基本的に同じ事は書かないようにしようと心がけてはいるのだが、これは言わずにはいられないでしょう。。この作品の良さや内容を的確に紹介出来ているとはとても思えないこの大袈裟な文句。この帯のせいで、ホノブファンでない良い読者やふさわしい読者をみすみす逃してしまうんじゃないかとすら思う。自分のつたない記事でどれだけ挽回できるかわからないけど、がんばります。

本作はノンシリーズで、5編の短篇が収録されている。
見方によってはホラーのようで、技巧にこだわったミステリのようで、全てを含んだ文学作品のようで。作者の得意とするライトノベルや痛い青春ミステリのイメージを覆すような、実力派にしか書けない新たな世界が出来上がった。ジャンル的には珍しいものではないので、海外文学がお好きな人や読書慣れしている人にもオススメでは。最後にすとん、とオチの付くものもあれば、理屈ではおさまりのつかない洒落っ毛が効いたものも多いので架空の世界を取り込める人の方が楽しめるかも。

気に入ったのはほとんど全部なのだけど、最後のオチと言う事なら「北の館の住人」に一票。語り口の雰囲気や不気味さをサラッと楽しむなら毒たっぷりの「身内に不幸がありまして」。目新しくはない題材だけど怪談風でハラハラしたのが「山荘秘聞」。一番ストーリー的に気に入ったのは「玉野五十鈴の誉れ」。姉貴が「桜庭さん?」と思われたのはこの作品ではないかと推理。「儚い羊たちの晩餐」はホラーとミステリの融合という趣きが強い。料理人の設定、主人の性格、そのオチ、全てが驚きの連続だったなあ。

大変気に入った作品集です。ホノブらしい毒も効いていて、随所にらしさが伺える上にさらに新しいジャンルに挑戦し描き抜いたなあ、と。ある意味一番好きかも。ただ、お仲間さん内では今まで通り、Sさんには絶賛を持って受け入れられるだろうしbさんには微妙な反応をされるかも、と思ってしまった。