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フロスト日和/A Touch of Frost (ねこ3.8匹)

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R・D・ウィングフィールド著。創元推理文庫

肌寒い秋の季節。デントンの町では、連続婦女暴行魔が悪行の限りを尽くし、市内の公衆便所には浮浪者の死体が小便の海に浮かぶ。いやいや、そんなのはまだ序の口で……。役立たずのぼんくら親爺とそしられながら、名物警部フロストの不眠不休の奮戦と、推理の乱れ撃ちはつづく。中間管理職に、春の日和は訪れるのだろうか?笑いも緊張も堪能できる、まさに得難い個性の第二弾!(裏表紙引用)


ここんとこのフロストブームに便乗し、積読本を引っ張り出して来た。700ページ強の大長編であり、さしものゆきあやも3日かかった強敵。登場人物欄は32名もの名前で黒く塗りつぶされ、これは心してかからないと半分も行かないうちに混乱するぞと気合いの入った読書となった。

しかしそんな心配は杞憂に終わったよう。とにかく刑事だらけなのだ。エリートから見れば浮浪者かと見まごう風体のフロスト、彼を親の敵の如く嫌うマレット警視、フロストの相棒ウェブスター、対立するアレン警部に挙動不審のシェルビー、魅力溢れる才女スーザン巡査、デントン警察署はその他もろもろの個性派ぞろい。さらに次々と発生する凶悪事件の大乱舞、登場する関係者、容疑者達の個性も只者ではない。何かを隠している者、通常とは違った反応をする遺族、娘の家出に無関心の母親、フロストを信頼するこそ泥に同性愛者のホームレス、これでもかこれでもかと豪華絢爛なキャラクターのオンパレード。そんな中、まったく個性を失わないフロストがやっぱり凄い(笑)殺人事件の現場に臨場しつつ頭の中ではパーティーにいかに潜入するかしか考えておらず、上司の呼び出しには3時間でも4時間でも遅刻し、その計画はいつでも行き当たりばったり。こんな刑事が自分の捜査に当たったらとんでもないぞ、と恐れてしまう。

が、そんな欠点を美点に変えてしまうような素敵な一面も持ち合わせているのがフロストなのだ。犯罪の隠蔽に心から憤り、被害者の遺族への報告には誰よりも心を痛め、亡くなった奥さんの誕生日を忘れていた事にいつまでも拘泥したりする。彼にとって生きる事とは捜査をする事であり、それが刑事である限り終わる事はない。失敗を重ねるフロストには何度もイライラさせられたが、悪を憎む彼は最後の一人になるまで諦めなかった。

別にbeckさんに感化されたわけではないが、この作品はあと100ページほど追加してもらっても良かった気がする。全てがおさまるところにおさまり、怒濤の数日間を不眠不休で働き続けたフロストが
事件後何を思うのか。それを知りたかった。