ドン・ウィンズロウ著。創元推理文庫。
「じつに簡単な仕事でな、坊主」養父にして朋友会の雇われ探偵グレアムがニールに伝えた任務、それは健全さが売りの人気TV番組ホストのレイプ疑惑事件で、被害女性ポリーを裁判できちんと証言できるよう磨き上げることだった。世にも奇天烈な英語教室が始まる。彼女の口封じを狙う者あり、彼女を売り出して一儲けを企む者あり……様々な思惑が絡み合うポリーゲート事件の顛末。(裏表紙引用)
”ストリート・キッズ”ニール・ケアリー六年ぶりの帰還”ということで、シリーズ三作目である前作「高く孤独な道を行け」から実に六年のインターバルを置いて出版された作品だということ。そのためかどうか、噂どおりシリアスキッドからコミカルタッチのどたばたサスペンスに見事様代わりしている。孤独だったニールも27歳になり、恋人カレンと同棲中で幸せ真っ盛り。そこへ養父のグレアムが登場し、久々に彼に探偵業を押し付けるのだが。。
展開に変化がないように見られるけれど、今回は悲劇のひの字もない。元タイピストで赤毛の放蕩娘ポリーの言葉使いはめちゃくちゃで下品で笑いようがないわ探偵が3人も出て来るわで全くまとまりがない。ラストでいきなりウォータースライドにのぼりはじめるニールには苦笑してしまった。”どたばた”とはモノは言いようだが、前作までに見られたユーモアはニールの孤独と哀愁と社会情勢の暗さを背景にしてこそ成り立つ笑いだっただけに、満ち足りた彼が惰性で放つ冗談には笑えるはずもない。彼の心の傷は一生癒える事がないはずなのに(グレアムとの関係でもそれは分かる)、同じく不幸な人生を歩むポリーに対し冷め切った態度で臨むニールは自分が憧れ魅力を感じていた頃の彼ではない。
ただ、まあこれはこれで軽く読むには面白いかな。幻滅した訳でも見切りをつける気もないのでとりあえず5作目を楽しみにしましょう。