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犯罪は二人で  (ねこ3.8匹)

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天藤真著。創元推理文庫

二年三ヶ月ばかり食らい込んで出所したおれは、保護司の娘に一目惚れ。真人間になります、と厳粛に誓約して幸運にも高嶺の花を手折ることが叶ったのだ。しかし、白波稼業へ返り咲く夢断ち難く悶々と過ごす毎日。そんなおれの肚を読んだわが慧眼の恋女房殿は、なんとなんと「夫婦じゃないの。死ぬも生きるも一緒よ。二人で新しい怪盗を作りましょうよ」と宣うた。さても夫婦善哉。(裏表紙引用)


このトミーとタペンスの怪盗版のようなタイトルに引けてしまい、最後まで手をつけにくかった本。コミカルな犯罪劇が苦手なおいらだけど、読んでみるとコミカルという部分だけ当たっていて想像していたような犯罪を美徳とする事を中心においたコンビではなかった。これなら歓迎。てっきり連作短篇集だと思っていたら3作しか入っていなかった事に淋しさを覚えたほど。

12作の短篇が収められていて、それぞれの完成度は高い。連作に慣れている自分としては、こうたびたび登場人物や設定を仕切り直さなくてはいけない短篇集はどうだろう、と思っていたがこれはやはり天藤さんの力。わずか30数ページほどの短い事件の中に、それぞれの人生や人柄がギッシリ詰まっていて起承転結も見事なもの。ミステリとしての謎解きも目をみはるものがある。普通はこれだけの作品数があればどれが気に入ったあれがイマイチだった、という選り分けに忙しいものだがどれも甲乙つけがたく、平均的な高評価をキープしている。良いものばかりなだけに読む方も体力を使っていたらしく、結構読後疲れてしまった。

普段の天藤作品ではあまり感じなかった”文章、時代の古さ”が今回は目についてそれが4匹越えにならなかった理由なのかもしれないが、この時代だからこそ似合いなのはやっぱり今では珍しくなってしまった人と人との繋がり、思いやりだ。戦後の日本には犯罪にも人情があった。そういう人達をピックアップして凝縮されたこの作品集、今は温かい気持ちでいっぱいだ。