すべてが猫になる

ヤフーブログからお引越し。

聖なる怪物/Sacred Monster (ねこ3.6匹)

イメージ 1

ドナルド・E・ウェストレイク著。文春文庫。


ハリウッドの引退した老俳優ジャックが、インタビュワーに語る壮絶な半生。親友との暮らし、
二度目の結婚、ドラッグと酒に溺れ数度意識を失いながら語りかける退廃の物語。彼の錯乱と
笑いは読者をめまぐるしい狂気の世界へと誘う。



『斧』『鉤』と続いて翻訳された80年代のウェストレイクの作品だそうです。
タイトルの統一性が失われてしまいましたが、まあ、内容的に同じテイストのものと判断しても
良さそう。ただ、本作だけはホラーというよりミステリに近いかな、と思ってこっちのカテゴリに
入れましたが。ミステリ好きじゃなくてもだいたいの仕掛けはわかるように書かれているのだけど、
ジャックの狂気が綺麗に表現されている構成(現在のインタビューと過去のフラッシュバックに
よる作り)なので混乱はされずとも引き込まれやすい。失神しては我を忘れ、極度の恐慌状態に
陥って行く彼は哀れであり、悪の匂いすらする。

これがユーモア作品だとすればかなり趣味が悪いというか、ブラックな内容。あらすじで
「笑ってられるのは途中までだ」と煽られずとも、最初から笑えた箇所なんかひとつもない。
ヒリヒリと痛いジャックの過去に触れるまでもなく、現在の彼の状態を見ればかなりヤバい
展開になる事は想像出来るし、その覚悟を踏まえながら読んでしまうこちらに笑っている余裕なんて
どこにもないのだ。