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海の底  (ねこ4.4匹)

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有川浩著。メディアワークス


『空の中』に続く、有川浩の感動巨編! 横須賀に巨大甲殻類来襲。 食われる市民を救助するため
機動隊が横須賀を駆ける。 停泊中の潜水艦『きりしお』に未成年者13名が逃げ込み孤立。 そう、
海の底から来た『奴ら』は―――『レガリス』。 (あらすじ引用)


すっかりお気に入りとなった有川さん。
前作の『空の中』とはまた違う魅力のある物語。『空の中』はその未確認生物の成り立ちや人間と
絡み合い共存して行くのかどうかというその過程のスケールの大きさを評価したが、その分
キャラクターがオリジナリティに欠けるという不満もあった。
本作は、人食である巨大ザリガニが出現し人々を襲うという設定でありながら、パニック小説という
より青春小説(恋愛絡む)に重きを置いた内容という印象。


※ここより若干、物語の筋について触れています。未読の方はご注意をば。




「きりしお」実習幹部である夏木三尉と冬原三尉を中心に、潜水艦に閉じ込められた十三人の
未成年者。その原因が、彼らの艦長が身を挺して子供達を守った事にあり、彼らと子供達の間には
見えない軋轢がある。年長者である望は唯一の女子で、身体的に女子であるが故のハンデを持つ。
一緒に避難した望の弟は口が利けず、彼ら姉弟を目の敵にする圭介が次々と問題を起こす。

17歳でありながら子供にしか見えなかった望が、夏木や冬原、圭介達と過ごした怒濤の数日間で
徐々に”女性”の顔を持つようになる展開はあっけないようで当然の成り行きのように見える。
素晴らしいのは、ここまで反抗心を剥き出しにし、付ける薬もなさそうな少年が最後に途轍もない
心境の変化を見せる事。これを成長と言わずに何と言おう。反省し頭を下げるだけのラストシーン
などには興味はない。未熟な子供だからこそ普通に有り得る人生の転機を目の当たりにし、
ここでは震えるような感動が起きた。

また、夏木と望の微妙な”年齢差”恋愛もやり方が素晴らしい。
したたかさを身につけた少女の一途な想い。てっきり、再会した夏木が行動を起こすのかと
思いきや、彼の別れの台詞を見事彼女の行動に生かしてしまった。これはやられた。


正直言うとあまりザリガニには興味を持たずに読んだが、成長物語としては抜群の出来だと思う。
『海の底』というタイトルにだけ疑問を感じたが、何かを象徴したのかもしれないと考えて
気にしないでおく。