すべてが猫になる

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誰か Somebody  (ねこ4匹)

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宮部みゆき著。文春文庫。


今多コンツェルン広報室の杉村三郎は、事故死した同社の運転手・梶田信夫の娘たちの相談を受ける。
亡き父について本を書きたいという彼女らの思いにほだされ、一見普通な梶田の人生をたどり始めた
三郎の前に、意外な情景が広がり始める―。稀代のストーリーテラーが丁寧に紡ぎだした、心揺るがす
ミステリー。 (裏表紙引用)



さて、先日カティさんとこの人気カテゴリ”ミステリあいうえお”で紹介されていた作品を早速
買ってみた。トップに『た→「誰か」』が燦然と輝いているうちにウチも……と思っていたら
早々と『ち→「チーム・バチスタの栄光』に更新されてしまい、新しい記事に喜びつつも机に
のの字を書いてしまうゆきあやである。


宮部さんの本を読むのは『模倣犯』以来だからかなり久しぶりという事になる。正直言って
大ファンかと言われると口ごもってしまうのだが、東野圭吾と同様、久々に読むとやはり他の
作家さんとは大きく違う描写力に感心しまくり、最後にはやはり大きく心を揺すぶられて
涙の一つでも落としたくなる。今読んでる『目薬α』が正直辛い。


前半は自転車事故で命を落とした運転手の犯人捜しと、その娘である姉妹たちの心の奥に潜む
何かを探り出す、という流れ。あまり面白味がないかなあ、と懸念しながら読んでいたのが
正直なところだが、中盤を過ぎ、物語が意外な方向へ動き出すと俄然面白くなった。

自分が想像していた”犯人捜し”という展開にならなかった、というよりストーリーのポイントは
そこだけではなかったのが嬉しい意外性。意外な人物が意外な行動を取り、かなり不愉快な
要素が強くなる。完全な解決とは言えないが、それを踏まえて感心するのは宮部さんの
主人公の動かし方。これと言ってパッとしないが世間から見れば「恵まれた」環境にいる彼は
外野に心ない言葉を投げつけられても強く言い返しはしない。そこが歯がゆくもあるが、
半分自覚し、罪悪感を持っている事を表現出来ていると共に、大きな視野で物事を捉えられる
人物である証明にもなる。そこを、買い言葉ではなく、別の角度で彼の生活を映し出すという手法を
取るから効果がある。

う~ん、さすが。本作は宮部作品の中でも好きな1冊の1つになりそうだ。