すべてが猫になる

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狗  (ねこ3.6匹)

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小川勝己著。早川書房


復讐、虐待、束縛、背徳、疑心暗鬼…暗黒の深淵にたたずみ、卑しさ故に純美な五人のファム・
ファタルと、翻弄され堕ちていく愚かな男たち…。狂気と愛憎の狭間で揺れ動く壮絶な人間模様を
抉り出した「蝋燭遊戯」「老人と膿」「You裡」「代償」「夢の報酬」の五篇を収録。クライム・
フィクションの鬼才が放つ現代悪女列伝。(裏表紙引用)



”悪女”をテーマにした短編集。
期待が大き過ぎたのか、今回は小川さんにしては物足りない作品集だったような。だって小川さんが
悪女を描くだなんて、自分の好きな要素だけをピックアップしてくれていると想像するようなもの。
もちろん普通以上は面白いのだけど。

『蝋燭遊戯』
自己中心的すぎる元彼女に結婚式の邪魔をされた青年のお話。
ストーカーのように、対象に好意を抱いているケースとはまた違うおかしさが怖さのポイント。
これは面白かったのに、オチが安易すぎてびっくりしました。せっかく壊れた世界だったのに、
妙にリアリティのあるネタで残念。


『老人と膿』
タイトルに100点(笑)。
厚意から、虐待されている老人の家庭に乗り込んだ女性。
実際にこういうケースはあるのでしょうね。不幸な老人の状況がいたたまれません。
このめちゃくちゃな展開は笑えるのですが^^;、爽快感がなかったですね。小川さんが描くと
壊れている人間に疑問を抱くことは稀なのですが、今回はその稀なケースに当てはまったようです。


『You裡』
懐かしのキャバクラ、「ベイビーキッス」が登場!
遊び慣れないサラリーマンが付き合いで寄ったキャバクラ。彼はノリで「ゆうり」という源氏名
少女を指名してしまうが。。
ははは、やっぱり小川さんはメールや手紙などの壊し方がうまいですね^^;
やられてしまってる事はめちゃくちゃなのですが、物語のオチとしては目新しさがないような。


『代償』
教師が生徒の母親といけない関係になってしまうお話。
これもありがちかなあ。こういうケースは破滅してしかるべきだし。


『夢の代償』
中編です。これは今まで読んで来た小川さんの作風とはガラッとイメージが変わりますね。
魅力的なボーカリストを擁するアマチュアバンドに起きたある事件。
驚くほどに”普通”にしっかりと音楽について突き詰めて書かれています。経験者から見て
疑問を感じる記述がない。(例えば漫画の『NANA』にはいっぱいツッコミどころがあるんだけど)
ミステリーとして見ても好きな作品ではないけれど、小川さん、何か手の内まだまだ隠してない?と
今後が気になります^^


余談ですが、この恥ずかしい表紙。現物なのかネットの画像なのか定かではありませんが、
違うパターンのものありませんか?この女性がスカートを捲っていなかった気がするのですが。。