すべてが猫になる

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人形(ギニョル)  (ねこ3匹)

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佐藤ラギ著。新潮社。


謎の男娼、その名は「ギニョル」。純白の肌に口を開けた真紅の傷跡が、平凡な中年男だったはずの
「私」の中の何かを壊した。甘美な嗜虐と官能の日々。しかし、「邪悪ナル世界」に本当に監禁
されたのは、実は私だった……。第3回ホラーサスペンス大賞受賞作。




ぐえっ。久々に気持ち悪い本を読んだ。。
ホラーサスペンス大賞で読みこぼしていた本なのだけど、それなりに話題になった割に題材以外は
たいした事はなかったんじゃないかと思う。作者の狙いはわかるけれど、こういう残酷劇の
グロテスクさとか、背徳の美しさとか、読者に影響力を与える程のパワーはこの作品にはない。
ジャック・ケッチャムの『隣の家の少女』ぐらい、こちらにトラウマを与えるほどの絶望と
知りたくなかった世界に比べたらこれは普通のやりすぎたエンターテイメントだ。

と、言うからには、それなりのやめられない面白さと、謎の少年”ギニョル”の魅力はあった。
『隣の家の~』には、自分のようなそこまでの趣味はない人間が挫折するほどの痛さがあり、
言うならば”面白くない”以外の理由でフィクションに挫折するほど感情をかき乱される必要など
ない。そんな自分が、気分悪いなと思いながらも先が気になって結末に興味を持って
読み通せたわけだし、延々と続く虐待シーンにこちらの目が麻痺し、単調さを感じた頃に
上手に展開をひっくり返されて行く様は確かに面白い。きっちりとした小説だったのだな、と
安心感すら湧く。

注文を付けるならば、謎を謎のままにするより他にいい手段があったように思う。
謎めいたギニョルの存在がこの小説の命だとは言え、それを知らないままで大事に置いておきたい
ほどのものでもない。