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第1位 『孤島の鬼』 著/江戸川乱歩

神よ。乱歩よ。貴方の織り成す世界はどうしてこうも怪しく現代でも煌めいているのか。

おいらが乱歩に傾倒しているのは皆様ご存知だと思いますが、なかなか記事にする機会もなく、
3年の月日が流れてしまいました。他にも書きたくてしょうがない乱歩記事がたくさんあるの
ですが。本当は『黄金仮面』と『悪魔の紋章』もベスト内に入れる予定でした。短編はさすがに
入れられないので断念しましたが。同じ理由で『モルグ街の怪事件/エドガー・アラン・ポー』も
2位に入れたかったところを断腸の思いで外しました。

本作も、中編と言えば中編なのですが(たいてい『猟奇の果』とカップリングになっている)、
一応300ページ程の文量ですし、「復帰後第二長編」として通っている作品なのでアリかと。
乱歩は本来、探偵小説らしい探偵小説、つまり論理とトリックを重要視した作品を目指していた
そうです。が、ファンから支持されるのは「猟奇乱歩」の方だという事実に諦観し、一時乱歩は
筆を折ったのでした。(でも『D坂の殺人事件』『心理試験』とかはいいと思うんだけどな。。)

おいらも実は、論理乱歩より猟奇乱歩派で、明智小五郎に心酔している訳でもはたまたそういう
時期があった訳でもありません。『芋虫』『人間椅子』『一寸法師』系の作品が大好きなので。
『屋根裏の散歩者』『恐怖王』のように、怪物ではなく、人間が怪奇的な行動を取る、その
恐怖が途轍もない楽しみであったのです。そもそも怪人二十面相もヒトだし。人がマントかぶって
気球に乗ってアドバルーンに自分の名前書いて変装してナニやってんだって思いません?^^;
そこで理論と冒険、行動で事件を解決する乱歩のスタイルが子供心にも、大人になった今でさえも、
大きな魅力なのだと思います。


そこで本作なのですが。
今読むと、不可能犯罪事件を華麗に解決した第一部とある孤島に閉じ込められた不○者の手記で
始まる第二部(自分で勝手に分けた)が独立しすぎ、もったいない感はありますね。
昔の記憶では、コレとアレは別のお話だと勘違いしてた頃がありましたから。
殺人現場からなくなったチョコレートの缶や、衆人環視の中での刺殺事件、壷の謎など、
今読むと絶対「んなばかな」なんですが、恐ろしくて眠れない程衝撃でしたねえ。
一番好きなのは、やはりある哀れな双子の片方が書いた日記の内容なのですが。。。
後半は宝探しという冒険小説の体をなして来ますが、その中でもちょっとした切ない恋愛が
ほの見えたり、同性しか愛せない宿命を持った諸戸の純粋さと呪われた血がやるせなく、
単調でない物語の深みを見せてくれます。

内容が内容だけに、改訂版では現代に適さない表現は修正されているとは言え、やはり
元あるものが淘汰されてしまうのは仕方がないのかもしれません。出来れば元の版で読んで
欲しい。
今ではほとんど読む事のなくなった乱歩だけど、時々心に隙間が出来た時、何かが失われた
現実を思い知った時、その何かを埋めるために乱歩を引っ張り出すのです。