すべてが猫になる

ヤフーブログからお引越し。

猫舌男爵  (ねこ4.7匹)

イメージ 1

皆川博子著。講談社


5編収録の幻想小説短編集。

凄いな皆川さん。日本人にこんな力量のある作家さんがいていいのか。。一言メッセージについ
書いてしまったように、本当にコレを読んだ後、いつものように「さて、次」と他の本を読み始める
気にはどうしてもなれなかった。たとえばもの凄く面白い興奮する感動作を読んだ後、その物語に
浸りたいから、という理由ともなんとなく違う。この丹念に読まなければ損をしそうになる美しい
重厚な文章とその世界に気がつけばどっぷり浸り、次の本を読む体力が残っていない、というのが
正しいかもしれない。

では感想を。

『水葬楽』
近未来のお話ですかね。ある秘密を持った兄と妹。親に見向きもされずに育った彼らの住む現代は
平均寿命が20代、富める者のみ死後は豪華な水槽に葬られ……。
いきなりどういうお話なんだろう、と驚きしか得られませんでした。グロテスクな風習に嫌悪と
同時に惹き付けられ、美しい詩が読む者をうっとりさせます。音楽は一度目が美しいというのは
まぎれもない真実ではないでしょうか。音色というならば余計に。
実は、こういう事だったとは気付かなかった為、非常に驚いた事と、現実の残酷さと理不尽な
リアルが心に焼き付いて離れない作品でした。これ、大好きですね。


『猫舌男爵』
かわいい表紙で表現されている表題作ですね。作品中に出て来る針ヶ尾奈美子のこの作品の表紙は
こんな感じなんでしょうか^^

……って、ほのぼのと言ってられない程意外なお話が広がっておりました^^;;
なんだこりゃ^^;;
ロシア人かな?ヤンという似非日本かぶれの青年が、山田風太郎忍法帖に憧れて、いつかは
ヤマダ・フタロを読めるようになりたい、とうだうだと間違った日本語と慣用句のとんでもない
誤解釈が綴られているという。。一応彼ががんばって訳した私家版のあとがきなんですが、
日本文化ここに極まれりのオモシロ談に加え、この彼のめちゃくちゃな翻訳が海を渡って
様々な人々に波紋を呼び起こすわけです。
もう、最高ですね。とにかく読んでくれ、って感じ。


『オムレツ少年の儀式』
舞台は現在のチェコプラハ。母と二人で貧窟層の靴屋のアパートへ転がり住んで来た少年。
翼は比喩だと思うのですが、食べるために働く事の尊さ厳しさがこの物語の主人公でしょう。
ここまで描ける人がいるのに、残酷だからって広がらないのか。。


『睡蓮』
精神病院に30年閉じ込められ他界した、ある女流芸術家の一生が、書簡のみで綴られて
行きます。最初「?」と思いましたが、日付をよく見ると、時系列の降順になっているのですね。
彼女の運命がどうなって行くのか、という普通の読み方でなく、どうしてこうなったのか、を
「追う」形なので非常にエキサイティングでした。読後、逆に読み直してしまいましたよ。
これもすばらしい。

『太陽馬』
世界史にも疎いのですが、これは第二次世界大戦中、コサックが舞台です。
激動の時代、スターリングラード攻防戦。確認しましたが、史実によるとこの戦いは。。う~。
日本史なら投げ出してしまうところですが^^;、最初の「舌がある」人間の登場や
指の弦などの記述に引き込まれて頑張って読み通せました。
これも凄い。皆川さんがお得意そうである歴史小説の名を借りて、一青年の人生を通し、
あくまで幻想的美しさを損なわず世界を確立してしまった。そんな気がする。
ただ、こういうお話ばっかりだと正直辛い^^;


ふう。疲れたぁ。
好みで言うと『聖女の島』の方が上なので、点に差をつけました。こっちが満点の人も
多いのかな。自分の印象では、『聖女~』の方があれでも一般受けする側に入るのかも、と
これを読んでから今更思いました^^;