すべてが猫になる

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遠まわりする雛  (ねこ3.7匹)

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米澤穂信著。角川書店


神山高校で噂される怪談話、放課後の教室に流れてきた奇妙な校内放送、摩耶花が里志のために作った
チョコの消失事件ーー”省エネ少年”折木奉太郎たち古典部のメンバーが遭遇する数々の謎。入部直後
から春休みまで、古典部を過ぎゆく一年間を描いた短編集。(あらすじ引用)



読んだよー。

先日読んだ「クドリャフカ~」以来、わりと気に入って読んでいる古典部シリーズ。
初の短編集ということで。

印象をまとめるとすれば、やっぱりこういうキャラ重視のシリーズは恋愛要素が入った方が俄然
面白くなりますね。北村さんの「覆面作家」もののように、いきなり大人のあれやこれやが
交じれば戸惑いますが、このシリーズはさすがに青春ものらしく、ちょっと相手の口を手で塞いだり、
お化粧したりおめかししている姿にどぎまぎしたり、と”初恋に気付く直前”の年代の気持ちが
微笑ましく描かれています。
里志にスポットが当たるお話もありますが、自分が感じたのは現実でもよく思い知る男性のズルさ。
それが、この年齢で早くも蕾が膨らみかけている少年、という姿に映って痛々しくなりました。

奉太郎の”省エネ”主義も、早く大人になりたいと願う少年のあがきのようで、心を大きく持って
包み込むように読んでしまいます。結局彼にも1人の女性を好きになる心があり、誰かのために
身を削りたいという本能がある事を、未熟ゆえに認められないのでしょう。臆病なのは悪い事では
ありませんが、恋愛や友情に別れやトラブルはつきもの。彼の”省エネ”主義が本当に板に付くのは
まだまだ先になるでしょうね。

ミステリーとしての面白さはそれほどありませんが、奉太郎の姉が言い放つ「たいしたことじゃない」
という捨て台詞が全てを言い表わしている気がします。彼らが大人になるためのステップとして、
小さな謎を解き明かして行く物語。社会に出たらそれどころじゃなくなるという羨ましさも込めて、
古典部の面々のこれからを見守って行きたい所存でございます。