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花まんま  (ねこ4匹)

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朱川湊人著。文春文庫。


母と二人で大切にしてきた幼い妹が、ある日突然、大人びた言動を取り始める。それには、信じられ
ないような理由があった……(表題作)。昭和30~40年代の大阪の下町を舞台に、当時子ども
だった主人公が体験した不思議な出来事を、ノスタルジックな空気感で情感豊かに描いた全6編。
直木賞受賞の傑作短編集。(裏表紙引用)




第133回直木賞受賞作ということで。おいら絶賛の『都市伝説セピア』は直木賞候補に留まった
とか。作品のクオリティで言えば『セピア』の方が圧倒的に上だとは思うのだけど、直木賞って
こういうものでしたね、そういえば。
とは言いながらも、本作の完成度の高さはどうだ。ハズレ作が一つもないし、本来自分が朱川さんに
求めているノスタルジックホラーの路線そのままだ。個人的には『セピア』に次ぐお気に入りと
なった。

何より自分を嬉しくさせたのは、関西人ご用達のケーキ屋さん、『パルナス』の登場。このCMソングを
歌えない関西人(おいらの世代より若い人は知らないだろうけど)はいなかろうて。それほど
おいしかった記憶もないが^^;、大人になってからも堺東で待ち合わせをする場合には
「じゃあパルナスの前ね」と言って通用しない人はいなかった。

時代的には自分が生まれる10年程前のお話のよう。
それでも登場人物たちが住んでいる地方が自分に馴染みのある場所が多く、地名を伏せられても
ピンと来てしまう所ばかりだ。差別問題にも深く関わり合っているお話があるが、最終話の少年は
おそらく○落の家庭なのだろうと想像した。現代でも、この言葉を普通に使う人はいる。
自分の幼少時代は、道徳の授業で学んだ事もありここまであからさまな差別を受けている生徒は
いなかったように思うが。


それはさておき、ゆきあやが気に入ったのはまず「トカビの夜」。病弱な子供、文化住宅
怪獣図鑑やラジコンカー、そしてパルナス(笑)。全体的に幼少の頃の後悔と哀しい記憶を
懐かしく描いたもので、たいへん気に入った。「妖精生物」の少女の初恋と、現実の重さも
胸苦しいものがあったし、一風変わった「摩訶不思議」も人気がありそうだ。だらしないのになぜか
モテる叔父さんの突然の死。葬式で繰り広げられる血で血を洗う争いは言っちゃなんだけど
笑えるしほのぼのして見える。ラストの展開は有り得ない系だがタイトルとのオチの付け方がいい。
ラスト収録の「凍蝶」も良かった。最初は本当にこの少女はアレではないかと思ったのだが、
まさか朱川さんの作品で、少年にとっては残酷とも言える現実を突きつけて来るとは。


関西の人ではなくとも十分楽しめる作品には違いないが、昭和60年以降に生まれた世代には
この作品集はどう映るだろうか。