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蝶たちの迷宮  (ねこ2.8匹)

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篠田秀幸著。講談社ノベルス


密室状態の部屋から突然女の悲鳴が聞こえたが、女の姿はかき消え、香川京平の絞殺死体が発見された。
その6週間後に、小説『蝶』を書いた池田賢一少年が不可解な死を遂げた。両者の関連は?そして作者の
言う「読者が事件の被害者にして犯人」の真相とは?(裏表紙引用)


積読して早数年。ノベルス2段組み450ページに恐れをなしていたわけでは……あるかもしれない。
一冊だけ読んだ『悪霊館の殺人』で、ヴァン・ダイン並の硬さを経験していたわけだし^^;
しかし読み始めてしまえば結構するすると読めるもので、それが本書が『悪霊館』と別シリーズで
ある事が関係あるかどうかはわからぬ。今や懐かし読者の挑戦状が挿入されている事や、
事件のポイントを数度箇条書きにして理論で固める所は変わりないかもしれないが。

それにしても本作、もの凄い大風呂敷を広げたもんだ。
★<犯人>=「探偵」=「証人」=「被害者」=<作者>→<読者> という構造を持ったミステリ
だそうだ。メフィスト賞作『ウルチモ・トルッコ』が思い出される。先行作があったのか。。。^^;;
しかも、2度にわたる読者への挑戦状は作者の鼻息が聞こえんばかり。
「さあ、読者諸君どうして読者が犯人なのか理論で解答に辿り着いてみせたまえ!さあ!さあさあ!」
というぐらいの勢いだ。

まあそれならそれで楽しみにはなって来るが、後半の作中作に突入したあたりからどうもいけない。
別に笠井潔氏が引き合いに出されている事や、竹本健治氏が推薦している事で「イヤな予感がした」
と言っては失礼かもしれないが、この作者が随分と弁が立つ方だというのはすぐにわかってしまう。
理論で固めたスタイルならば歓迎するが、その理論がすべて作者の観念的な偏りに寄ったものなので
期待ハズレ甚だしい。


ただ、「読み物」としては一昔前の大学生が遭遇した不思議な物語として、なかなか面白かった
のではないかと思う。そういうわけで、「とんでもない駄作」「10年に1度の愚作」という
おそろしい評判ほど悪い小説だとは思えなかった。これよりヒドい小説ならメフィスト賞
いくらでもあるぞ。。。