すべてが猫になる

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第7位 『十角館の殺人』 著/綾辻行人

この日のために読まずにおいた<新装改訂版>。字のフォントがでかくなった分、ページ数も増え
分厚くなっている。これはかなり読みやすい。表紙イラストもぐっと禍々しさが増し、十角館の
デザインまでオサレに変わっている。皆さん見比べてみましょう。
半年かかって継続しているこの企画も、とうとう十角館まで来たか、と少し感慨にふけさせて
もらいたい。自分にとってはこの作品で一つの節目となる。ミステリ人生としてもそうだし、
この企画としても(まだ上位未公表だけど)。


ネタバレ感想は過去記事→http://blogs.yahoo.co.jp/yukiaya1031jp/4237029.html


さんざん熱い思いを今まで語って来たので何も付け足す事はなさそうだ^^;

本書を初めて読んだ時の自分は、まだ新本格というジャンルも知らず、海外古典と星新一
社会派ミステリーだけを読んでいた井の中の蛙だった。本を読んでいれば一応幸せという性質では
あったが、一通りの本格推理を網羅していると”思い込んでいた”、満ち足りないままのあのころ。
ミステリーをここまで敬愛しているのは世界で自分だけだと思っていたかもしれないし、
もちろん自分は変わっているのだと思っていた。

本書の中には、自分の大好きなものが溢れていた。エラリイ、カー、という登場人物のニックネームも
そうだし、エラリイが披露するマジックに「ハートの4」を使っていた事もそうだ。

「何だこの自分にしかわからないネタの数々は!?」

そんな風に驚いた。しかも、オルツィって誰だ(と、当時思った^^;)。
自分と同じように、アガサ・クリスティを、エラリー・クイーンを、横溝正史を読んでいる人が
いるのか。そしてそれをネタに推理小説を書いているとは!
そして、その時はもちろんこの作品が「多くの読者に衝撃を与え続けた名作」という前知識すら
なかったので、今でも忘れられない”心臓が飛び上がったあの一行”はまさに衝撃だった。
歓喜し、人生に数少ない至福の時ですらあった。
しかも、改訂版では”あの一行”がページをめくった一行目に来るので効果は絶大に上がっている。
余談だが、自分は2、3行を同時に読めるという特技があるので”もうすぐ探偵が犯人を名指す”
予感がするあたりでは、手で読んでいない行を隠しながら読んでいたりするのだ。物語の一番の
ハイライトで、うっかり犯人の名が先に目に入ってしまっては目も当てられない。


その日から、まさにその読了したその日から、自分の読書人生は大きく変わった。
何を大袈裟な、と思われるだろうか。しかし、あるのだ。昨日までの自分はコレなしで何をして
生きていたんだろう、と思う程の出会いというのが。
新たな宝物を手に入れた自分だが、それでもやはり一人である事に変わりはなかった。
シャーロック・ホームズの話が出来ない世の中で、誰が新本格の話を語り合えるだろう。
その後は綾辻行人を集めまくり、有栖川有栖に出会い、我孫子武丸に出会い、森博嗣に出会った。
まさにはち切れんばかりだった自分の世界。そこでインターネットを始めた事はもう一つの
人生の転機だったかもしれない。自分が”ミステリ仲間が欲しい。綾辻行人の話が出来る人と
友達になりたい”と思った事がパソコンを購入した動機である。笑われてもいい。

そしてその結果はごらんの通り。
今日初めてこのブログをご覧になった方がいれば「こいつ依存症か」と退かれるかもしれないが^^;。
十角館の殺人」が自分をここまで押し流してくれた。断言してもいい。あの時、この作品に
出会えていなければ「すべ猫」は存在しなかった。
原点ってそういうものだろう。
さらに、どんな名作でも多少の評価分かれが起きる中で、この作品だけは全てのミステリファンから
愛され続けているという意味でも。
一冊の本から広がったのは、読書傾向という小さな世界だけじゃなかった。
綾辻さんありがとう。