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第8位 『夏と冬の奏鳴曲』 著/麻耶雄嵩

別に自分の趣味は人と変わっているとか、自分は人と好みのアンテナが違うとか言うつもりは
とんとありません。自分が麻耶氏と同じAB型である事も関係ありません。
本当はこのへんに『火車』とか『白夜行』とか『魍魎の匣』とかを入れられるような、
誰から見てもかっこいい、共感を呼ぶオールタイムベストでありたかった。


……と、ちょっと自虐的に始めてみました第8位はおいらが愛する麻耶雄嵩氏の問題作(また)、
『夏と冬の奏鳴曲』、略して『夏ソナ』。
さて、今さら何を書こう?^^;
出版当初は散々ミステリ愛好家の中で議論が白熱したであろう本書も、今となってはすっかり
”解けなかった謎”があちらこちらで解明され、風化しつつあります。

まあとにかく、本書の初読時の興奮があまりにも忘れがたく今回のランクインとなったワケです。
『翼ある闇』で籠の中に閉じ込められていたと思われる麻耶氏の世界観が爆発し、
また本格ミステリとして既存作品をオマージュしたスタイルも健在のまま、
「いや、ここ日本だから」と突っ込まずにいられない奇抜なキャラクターも登場し、
一人の編集者かぶれの青年が遭遇した事件を、最終的には神、宗教、芸術論を手がかりに
生命の存在意義にまで発展させそれを破壊してしまう(笑)破天荒で意味不明の物語。

自分の守る価値観が崩壊した経験は読書家の方なら一度や二度はあると思います。
壊すなら砂の城のようにはかないものであるべきで、強い愛に気付いた主人公は前に進むべきで、
推理小説なら探偵の手により謎が解き明かされるべきで。
最後の「謎」云々について賛否両論があるのは、次作『痾』の出来が歓迎されるものではなかった、
という理由もあるかもしれません。かくいう自分は、初読時にはほとんど意味がわからず、
数度本書を読み返し、サイトを巡り、『痾』を読んでやっとこさ自分の中で咀嚼出来た、
しかも1つ2つ謎を残しながら。という大きい声では言えない状況でした。

ただ、自分が麻耶雄嵩の作品に惹かれるのは、一見めちゃくちゃなおもちゃ箱のように見える
稚拙さの中に、模倣ではない”独自の発想”と、”基礎を踏まえた”上での無作為さが
あるからです。作品を発表するごとに端正になって行くのは技術の向上でしょうね。


なんだかあまり作品内容には触れられませんでしたが、この作品は自分の感性にぴったり
合った、地球上最後の作品なのではないか。。とまで思いつめた小説。だと言う事を
伝えられればいいかな。なんて^^;