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第9位 『黒い家』 著/貴志祐介

約半年かかってあたためて来たオールタイムベストも、一桁台になると妙に寂しくなるもんです。
このあたりから、意外な作品を登場させる、という楽しみがなくなって来ますしね^^;皆さん、
8位以降登場作品をこっそり予想されてみてはいかがでしょう^^
さて、さらに輪をかけてバレバレのランクインは本作、貴志祐介の『黒い家』です。

ヒントを書きますが、ここより上位にもう一冊、ある有名ホラー作品が登場いたします。つまり、
本書はゆきあやの愛するホラー、堂々の第2位作品となります。もっとヒントを晒すと、国内ホラー
作品では遂にこれを越える作品には出会えなかった、という事になるのです。
わたくしがホラーが好きな理由に、「人間の心理描写が命のジャンルであり、視覚に訴えるものを
文章で表現する力、センスが問われ、恐怖という人間の持つ本能から逃れられない限りあくまでも
一番自由」というのが第一にあります。だから別にグロいものが好きなわけじゃないんですよ^^;
ホラー=グロ、怪物、というイメージが浸透してしまっているのは恐らくホラー映画の責任も
あると思うのですが、まあ表現の仕方は別物ですしそれに当てはまっていても傑作はありましょうが。
だっていきなり暗闇から怪物が『がおーーー!!!』と出て来たりはらわたが飛び出したりすれば
誰でも怖いわい^^;;;



この作品の主人公、若槻慎二は生命保険会社の主任。ある日、顧客の菰田重徳にクレームで
呼び出された彼は、その”家”の異臭の存在に戦慄します。そして彼がその家の子供の部屋を
覗いた時、恐ろしいものを目撃し、悪夢のような事件に巻き込まれてしまう。。。


この『黒い家』は本当に凄かった。今まで読んだホラーで不満だった点が全て払拭されて
しまいました。「本当に怖いのは、普通の人間が本気でキレた場合」というテーマをもとに、
恫喝するだけのヤクザや昆虫の夢などを随所に挟み込み、恐ろしい人間と比較できる事の効果が
生きています。「サイコパス」という言葉が飛び交う作品中で、生きて来た環境や遺伝などに
考察しながらも、彼らにも人間らしい心はあるのだと主張する立場の女性の存在がさらに
菰田という人間に深みを与えています。

さらに、恐怖を象徴する「黒い家」の匂い経つような描写や、死体や陰惨なものに出くわした
時のそのじんわりと底からわき上がって来るような恐ろしさは最高級ではないでしょうか。
初読時、黒い家を訪れた若槻が子供の部屋で見つけた”もの”のくだりはあまりの驚きに
自分が小説内の登場人物になったかのような錯覚をおぼえたものでした。入り込んでしまう
ほどのこの描写力。普通の作家だったら、「うわーー!!!」とでも主人公に叫ばせて
いることでしょう。映画ならものすごい効果音でも鳴るのでしょう。



思い返すと、自分がよく感想で使う「人間が一番怖い」という言葉はこの作品と前述した
1位作品の影響を過分に受けています。理不尽な悲劇や、理解の及ばない心理、行動ほど
人間を恐怖に陥れるものはない、という事を教えられました。