デイヴィッド・ベニオフ著。新潮文庫。
走行距離計の数字が回転する瞬間を楽しみに待つドラマーと、そんな彼を捨ててゼロがいくつも並ぶ
契約書にサインする女性歌手の哀楽を描く表題作。若年兵がチェチェンの戦地で古参兵や老婆に
翻弄される「悪魔がオレホヴォにやってくる」。ひきこもり青年や、エイズに感染したゲイのカップル
など、現代を象徴するキャラクターを鮮やかに造形し、光り輝く世界を提示する鋭利な短編集。
(裏表紙引用)
なるほどぉ。「カットオフしたジーンズ」「アスリート」という言葉を読みながら、随分と現代ぽい
”今書かれた”小説だなあ、と思っていたのでありまするが。それが”売り””個性”である
作品だったのですねえ。あとがきにたくさんの賛辞が寄せられておりまする。
最初は少し戸惑ったのですが、よく読めば作風に一貫性のある短編集ですね。
特に凄い事件が起こるわけではなく、日常でちょっとした転機を迎える人間に起こる葛藤や
そこに現れる展開が、淡々と、だけどしんみりと漂って終わりを迎える。
オチもなにもなく、ただ流れて行く試練や彼らの人生の何かの節目。
中でも気に入ったのが、表題作。数字が象徴するそれぞれの人生。価値観の不一致ではなく、
優先順位の違いだったのかな。ラストの『幸運の排泄物』も良かった。飛行機内で一人の青年が
お漏らし(しかも大)をする、という奇抜な出だしなのですが、彼の生きて来た証がその
突飛な行動だったのかと思うと胸が切ないですね。(シェービング・パーティにはちょっと
笑ったけど^^;)哀しい反面、遠くない未来こうなれば、と医学界に夢を見た気がして
良かったかな。
その中で、『分・解』だけはちょっと異色でしたね。言葉遊びというか、意味はわからなかった
ですが^^;文章のリズムが楽しくてこういうのも嫌いではないです。
多少の空想力、咀嚼力が読者にも求められる作品かもしれません。そういうのが
ダメでなければ読まれて良いと思います。文章が読みやすいのも○。