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嗤う伊右衛門  (ねこ4.2匹)

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京極夏彦著。角川文庫。


疱瘡を病み、姿崩れても、なお凛として正しさを失わぬ女、岩。娘・岩を不憫に思うと共に、お家
断絶を憂う父・民谷又左衛門。そして、その民谷家へ婿入りすることになった、ついぞ笑ったこと
なぞない生真面目な浪人・伊右衛門ーー。渦巻く数々の陰惨な事件の果てに明らかになる、全てを
飲み込むほどの情念とはーー!?愛と憎、美と醜、正気と狂気、此岸と彼岸の間に滲む江戸の闇を
切り取り、お岩と伊右衛門の物語を、怪しく美しく蘇らせる。四世鶴屋南北東海道四谷怪談』に
並ぶ、著者渾身の傑作怪談!(裏表紙引用)



こんな京極夏彦を初めて読んだ。怪談ものの代名詞、『四谷怪談』の書き換えということで
非常に楽しく、恐ろしく、哀しく読ませてもらいましたぞな。
京極版・お岩の今までにない”かっこいい、芯のある”人物像はそれはそれは魅力的だったのですが、
伊右衛門の生真面目さやお岩に対する愛情の不器用さ、悪人である伊東の天の邪鬼さが絡み合って
これまでにない美しさと禍々しさを演出しています。
好きなシーンは、冒頭の蚊帳の外と内で会話をする伊右衛門と直助だったのですが。
そこで蚊を毛嫌いする伊右衛門に始まり、蛇に恐怖する梅の姿など、人間心理を上手く描いてますね。
最後の愁嘆場は恐ろしく、その哀しさは感動的ですらあります。まさかこんなに物語が盛り上がる
とはねえ。


お岩の魅力に話を戻しますが、まるで十代の頃の恋愛のような、真っ直ぐで汚れのない、
だけどそれゆえの擦れ違いはじれったくもあり、羨ましくもありました。
美醜で人間の価値は決まらないと堂々と生き抜くお岩も、女性として当たり前に持つ
コンプレックスに縛られていたように思えます。
自分ならば、少しでも綺麗でいる事を諦めたくない。お岩の容貌を哀れに思いながらも、
姿形に囚われず(いや、だからこそ)内面の美しさ可愛さを見初めてもらっている事に
憧れを感じます。

京極さんのまた違う世界に触れる事が出来ました^^満足です。