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第11位 『煙か土か食い物』 著/舞城王太郎

ランキング上位当然の舞城王太郎メフィスト賞受賞作。オールタイムベスト中では”新人”作家。
ベテラン勢を押しのけての迷いなき第11位登場です。この作品より下位に鎮座ましましている
傑作群をとくとご覧。それだけで、どれだけゆきあやがこの作品を特別偏愛しているかが
わかろうというもの。作家としては微妙なところもあるんだけど^^;、本書と短編集『熊の場所
だけは棺桶に入れてもらおうと思っている。この2作があれば舞城さんはもうそれでいい。


本書との出会いはもちろん、当時マイブームだった「メフィスト賞読破」がきっかけ。
そうでなければ、ゆきあやがこういうハードボイルドチックな、柄の悪そうな、ミステリでも
なさそうな本を手に取るもんかぃ。
元々肩書きと本屋での派手なポップから手に取るだけ取ってみて、あらすじを一読して
うんざりの溜息が最初に出た。引用しましょう。※カッコ()内はゆきあやのモノローグ。

『腕利きの救命外科医、奈津川四郎に凶報が届く。(ここまではまだいい、普通。)
連続主婦殴打生き埋め事件の被害者におふくろが?(お、おふくろ???(ーー;))
ヘイヘイヘイ、復讐は俺に任せろマザファッカー!(ぷしゅ~~~~~~;;;;;;)
故郷に戻った四郎を待つ血と暴力に彩られた凄絶なドラマ。破格の物語世界とスピード感あふれる
文体で著者が衝撃デビューを飾った第19回メフィスト賞受賞作。』


こんな本読んだ事ない。。。でも安いし目標があるし買ってみよう。
それでもタイトルが妙に惹き付けられるものがあったのだ。『煙か土か食い物』。どこか詩的で、
何の隠喩なんだろう?と興味も湧く。なんかカッコイイかもしれない。
ゆきあやの事だから6、7冊は一緒に買ったんだろうけど、未読作家優先ルールがあったので
とりあえずチャッチャッチャッ(ぷっv)と読んでしまおう。


一目惚れだった。
一ページ目の『チャッチャッチャッチャッ』が効いたんだろう。
アメリカで外科医を務める奈津川家・末っ子の四郎ちゃんが語り手となって、まるでヒップホップの
ように吐き出されて行く暴力と性衝動と家族愛の物語。時にはブルース、時にはロック、そして
時には演歌(笑)のようにめまぐるしく変わるその展開は今まで読んで来たどんな小説にも
なかった新しい衝撃であり、今までにない興奮と満足と”その先”を与えてくれた。
テンポの速さにこちらが遅れる事もなく、一郎の責任感に惚れ、二郎の大らかさと未熟さに惹かれ、
三郎の涙に同調し、四郎ちゃんの芯の強さと優しさと葛藤に夢中になったのだ。
そして父である丸雄の単純さと不安定さは決して魅力ではなかったけれども、真の主人公として
立ててやりたくなる”間違えてしまった愛情と自己満足”に最後は拍手だ。

彼らの暴力性と甘えを私は笑えない。
『家族は生きてるうちに、そして死んでからも引きつけあうのだ。生きている俺達が揃うと
まともなことが起こらないのだ。でも止められないのだ。力を抑え切れないのだ。それが家族の
お互いを引きつけあう力だ。家族として発生した以上、とどめようのない力だ。』
なんて純粋な力なんだろう。
この中には、「愛してる」なんて言葉はない。
それでも、人間が信頼関係を結ぼうと思ったら、歯の浮くような台詞じゃない、「それは本当に
そう思っていなければ言えない言葉」というのはあるはずだった。

こんなに泣ける、カッコイイ小説を私は他に知らない。
一生側に置いておきたい、自分の中では代わりの利かない大切な大切な、大好きな本です。