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6時間後に君は死ぬ  (ねこ3.6匹)

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高野和明著。講談社


「6時間後に君は死ぬ」。街で出会った見知らぬ青年に予言をされた美緒。信じられるのは誰なのか。
「運命」を変えることはできるのか。稀代のストーリーテラーが放つ、緊迫のカウントダウン・
ミステリー。(帯より)



先日『13階段』の記事で、高野作品はパワーが落ちて来ているのか、という意見を述べました。
多くの方から賛同の意を頂きましたが、おいらはまだまだ「見切る」ほど読む価値がなくなったとは
信じたくなくて、共著以外はとりあえず読破しております。まあ、でも、あらすじをざっと読んで
「読みたい」と思える内容ではないのですけども^^;


では、感想を。

表題作から。
圭史という「非日常な出来事が起こる」人間の未来が予知できる、という能力を持った青年と
平凡な25歳の女性・美緒との出会いが物語の始まりです。いきなり街頭で自分の死を宣告されて
美緒は始めは当然相手にしない訳ですが。。。
まるで「賞に受かる小説の書き方」の教本のようです。悪くはないが刺激もない、ってとこで
しょうか。
美緒の前職を考えると、この警戒心の薄さが生理的に理解出来ない。あそこで本名教えようと
するか?青年を信用した途端に名前呼び捨てにするか?なんだか陳腐な心理テストの結果を
見ているようでした。読む側の印象では、彼女が惹かれたのは「能力」でしょ。

『時の魔法使い』
タイムトラベルもの。プロットライターという職業を持つ未来は、自分の冴えない現実に
悩みます。ある日彼女が出会ったのは9歳の頃の自分。あの頃の自分には大きな夢があった。。
これも同じ印象でした^^;
「子供に何言うてるねん^^;」と思ったぐらいで。未来を知ったからって人に教えるべきじゃ
ないと注意したくなる性格なんですよね、どのキャラも^^;テーマと相反してしまう。。。

『恋をしてはいけない日』
圭史に「この日は恋をしてはいけない。」と予言された未亜。しかし、恋多き彼女はその日に
交通事故を目撃し、それが縁で一人の青年と出会う。
これは良かった!(笑)
主人公がもし25歳以上だったらまたしてもいい印象を抱かなかったと思いますが^^;、
陳腐が悪いわけではなく、自分と同調出来るかが大きいのかも。

ドールハウスのダンサー』
プロのダンサーを夢見る二人の女性。実力はありながら、どのオーディションもあと一歩の
ところで落ちてしまう。一心不乱に夢を追いかけるにはもう若くない。。。
どうしてこれを長編にしなかったんだ、と思うぐらいぎっしりと重みのある不思議かつ
スリルのあるお話です。哀しさをベースに、美しさと感動を与えてくれますね。
しかし(またかよ)、この結末にはリアリティがありすぎた感も。
いつも、「ここまでは凄くいい」んですよ。綺麗にまとめる方向よりも、何かを越えて欲しい。

『3時間後に僕は死ぬ』
あるお話のネタバレになるので登場人物については触れません。
カウントダウン・ストーリーの代表ですね。パーティーや披露宴でにぎわうホテルが
3時間後に火の海となり、多くの人間が犠牲になる、という予告をした圭史。
アテンダントと共に、彼は運命を変えようと奮闘する。
長編ではどういじっても持たないな、と思える内容。なかなかにスリルがあり、驚きもあり、
前向きな意志と生きる事の意義とを掲げていて面白いが。



あまりいい風に書けませんでしたが、つまらない、という事は絶対にないと思うんです。
が。最後まで読んで気付いたのは、着眼点も含めて全体的に「古い」のではないか、と
いう事です。余程斬新なものにしない限り、現代のミステリーでは通用しづらい
使い回しの設定と展開ばかりなのですよね。これから本を読もう、という方には
影響ないと思いますが、ミステリーを読みなれた読者には物足りないかも。
『13階段』で感じたような、作家の情熱、というものを感じ取れなかった。それは
ジャンルの問題ではなく、ね。ある意味、小手先でこれほど上手く書ける、というのは
やっぱり実力派なんだなあとも思える。