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秋の牢獄  (ねこ3.7匹)

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恒川光太郎著。角川書店


十一月七日、水曜日。女子大生の藍は、秋のその一日を何度も繰り返している。毎日同じ講義、毎日
同じ会話をする友人。朝になれば全てがリセットされ、再び十一月七日が始まる。彼女は何のために
十一月七日を繰り返しているのか。この繰り返しの日々に終わりは訪れるのだろうかーーー。
(「秋の牢獄」あらすじより)表題作を含む中編3編収録。




待ちに待った恒川さんの新作が廻って来たぞい^^v。いや、ほんと表紙が毎回綺麗ですね~。
背表紙だけでも、3作並べてみたい。

さて、3編作品ごとに感想を。


『秋の牢獄』
設定だけ読むと『七回死んだ男』みたいですが^^;;;
恒川さんの世界では、「十一月七日、水曜日」という、祝日でも週末でもない、平凡の極みさを
象徴する月日が繰り広げられました。もちろん主人公の祖父が殺されたり^^;、受験に失敗したり、
失恋したりといった事件が何も起こらない、世間でも特別大きな事件も起こらない「普通の」日、
でした。
だからこそ、人生を見つめる余裕が出来るのですね。
かと言って恒川さんの世界では際立った風刺的な背景が目立たず、あくまで郷愁的で幻想的な
世界を紡ぎ出す事、それが物語の中では生きています。


『神家没落』
一番気に入った作品です。
田舎の見知らぬ「家」に迷い込んだ青年が、「国内を移動する家」を何の因果か家守として
引き継ぎます。跡継ぎを探すために、喫茶店をオープンするところなんかは凄く独創的で
面白い。その後、次々と家を訪れる人間達との会話も不思議ながら、「事件」へと
発展して行く様は恒川ワールドとしては斬新で意外性がありました。


『幻は夜に成長する』
監禁生活を連想するプロローグが不気味で、一気に引き込まれました。
主人公であるこのリオという少女には不思議な力が備わっているのです。
実は、この猟奇的な出だしがエピローグにどう繋がるのかを楽しみにしていたのですが。。。
こういう事だったのか、を知るとちょっと嫌悪感が湧き出て来るのを抑えきれなかったです。
少しミステリの要素もあり、人間同士、子供同士の軋轢もあり、因果応報を扱ったものは
嫌いではないはずなのですが。。主人公が人間的すぎたために、思想の上でラストと
噛み合わないものを感じました。でも、作品の完成度として悪くはないです。



以上。恒川さんらしく読みやすく、なかなかよろしかったのでは^^
好きな作家の本って、すぐ読み終えてしまうので寂しいです。レベルは落ちていないと
思うのですが、次はここらでひとつどかーんと『夜市』を越えるものが読めたらいい頃合いかなと。

関係ないけど、これ、「大活字文庫」が出てるのね。。