すべてが猫になる

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名前探しの放課後  (ねこ3.6匹)

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辻村深月著。講談社


「これから、俺たちの学年の生徒が一人、死ぬ。ーーー自殺、するんだ」
「誰が、自殺なんて」
「それがーーきちんと覚えてないんだ。自殺の詳細」
不可思議なタイムスリップで三ヶ月先から戻された依田いつかは、これから起こる”誰か”の自殺を
止めるため、同級生の坂崎あすならと”放課後の名前探し”をはじめるーーー。(あらすじ引用)



やっと読了した辻村さんの新刊。
今回は意外にも読むのに日数がかかってしまいました。
辻村さんお得意の青春ミステリです。照れくさい友情、不器用な恋愛、努力する事の大切さ。
それらがあますところなく描かれ、ミステリとしての巧みな伏線とどんでん返しも健在。
さらに、辻村さんの作品をずっと追って来たファンには嬉しい要素も十分に含まれていて
今回も完成度の高い作品だったと思います。

キャラクターの描き分けも優れているのは辻村作品では当然ですね。
ちょっと冷めたところが魅力のいつかと、背が高い文学少女あすな。
名前探しに協力する「目指せ生徒会長」天木と、いつかの友人秀人。その彼女椿ちゃん。
そして「自殺候補者」に選ばれた河野の趣味は鉄道、そして「遺書を書く事」。
彼らがいつかの「タイムスリップ」を信用する過程、その反応はさまざまで、説得力があります。
中でも、魅力的なのがあすなの祖父。「グリル・さか咲」を経営する彼のプロとしての
スマートさ、愛する孫に対する優しいエピソード。彼の存在がこの作品のイメージを
決定づけたと言ってもいいと思います。

この作品で取り沙汰されていたもので興味深かったのが、「メガモール」。自分自身の生活で
心当たりがあるなあ、とちょっと肩身が狭くなりました。子供の頃から通いつめていた
地元の本屋さんが、最近駅前に出来た「阪○百貨店」「ジ○スコ」に取り込まれている
紀伊国屋」のせいで(多分)遂に昨年つぶれてしまいましたからね。
でも、こっちに行けば全部揃うと知っていてわざわざ小さい方の本屋はしごして新刊だけ
買いに行ったりしないもの。。


総評としては、ちょっと今回の作品はいい読み方が出来なかったです。

※以下、ネタばれします。未読の方はご注意下さい。

















「他の辻村作品を読んでいる」人はラストで驚ける、という情報を得てしまったために、
「このうちの誰かが辻村キャラの誰かでした」という仕掛けである、という事の見当が
ついてしまってました。それがネタバレである、と批難しているわけではありません。
自分がリンクに驚けるのには、過去読書の同様の仕掛けの傾向では条件があります。
「そのキャラに元々思い入れがあること」
「他のシリーズのキャラとリンクすること」
後者は決まったシリーズのない辻村作品では当てはまりません。
特に致命的なのは、自分が「ぼくのメジャースプーン」をそれほど評価していないから。

どちらかと言うと、自分が辻村作品を気に入っているのはその文章であり作家の個性であるため、
特定のキャラクターに固執して読んだ経験はないはずなのです。
しかし、これで辻村ファンを自称する自分が盲目的に色んな作品をベタ褒めしている
わけではない、という証明にはなったかもしれません。