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ラットマン  (ねこ3.7匹)

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道尾秀介著。光文社。


結成14年のアマチュアロックバンドが練習中のスタジオで遭遇した不可解な事件。浮かび上がる
メンバーの過去と現在、そして未来。亡くすということ。失うということ。胸に迫る鋭利な
ロマンティシズム。注目の俊英・道尾秀介の、鮮烈なるマスターピース。(あらすじ引用)



この新作の評判がなかなか良い、というのはなんとなくわかる。
今まで不評だった人物の心理や行動と事件の真相とのバラバラ感やいいものをラストに持って来るのに
雑であったりする欠点が払拭され、面白さと技巧の上手さが際立つ作品。

キャラの年代が自分と合っていたのと、小説にやたら多く感じる「ドラマーが女性」という
設定も同じく自分には引き込まれやすい。バンドマンという同じ畑に住む自分だから
余計にそのリアリティや情報の正確さまでもチェックを入れてしまうのは仕方がない。
本書のキャラクターは、エアロスミスのコピーを中心としたバンド活動を14年も続けている。
ハードロックというジャンルだから技術を求められるのは当然として、長年ポップロック
パンクロックのバンドにしか所属した事がない自分には彼らが羨ましかった。当然ながら、
こちらのジャンルでは技術よりもバンド間のグルーヴ感を求められる。それがうまくはまれば
最高なのだが(自動的に技術も上がる)、実際はリズムを取る事の意味すら掴んでもらえず、
周りの音を聴けない、パフォーマンスすらおぼつかない「クチだけ」なバンドマンさん、が
少なくないのだ。オリジナルにこだわらず、忠実に一曲一曲をコピーする事、その経験が
どれだけ自分の、バンドのプラスになるか。
ある時期から自分はバンドを換える時、「選ばれる」事をやめた。
本書のバンドマン達が「どうせ物真似バンド」と自嘲する姿は彼らのその葛藤が
伺い知れて非常に好感が持てる。


さて、ミステリとしてはどうか。
ぐるぐると二転三転する真相、無理のない「心理」に重点をおいた彼らの行動、
「そうすればどうなったか」の結果も状況だけでなく、人間とはいかなる考え方をするものか、
という悲哀までも映し出されていて素晴らしいと言える。
タイトルの絡みも物語としてはドラマティックで感動すら覚えるかもしれない。


しかし、今まで「道尾さんはココがちょっとなあ。もったいないなあ」と言っていた割に、
いざその欠点が払拭されてみると自分にはなんだか綺麗に収まりすぎて物足りなく感じる。
もっと人物に対する自分のツッコミや、サプライズでない異常性が欲しい。贅沢か^^;。

補足すれば、「メンバー内にカップルがいる」というバンドにはなるべく加入しない事にしている
自分なのでやはりこれは「好みの設定」ではないお話でした、という事に今回もなるのだろうか。