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深追い  (ねこ3.8匹)

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横山秀夫著。新潮文庫


不慮の死を遂げた夫のポケットベルへ、ひたすらメッセージを送信し続ける女。交通課事故係の秋葉は
妖しい匂いに惑い、職務を逸脱してゆく(表題作)。鑑識係、泥棒刑事、少年係、会計課長……。
三ツ鐘署に勤務する七人の男たちが遭遇した、人生でたった一度の事件。その日、彼らの眼に映る
風景は確かに色を変えた。骨太な人間ドラマと美しい謎が胸を揺さぶる、不朽の警察小説集。
(裏表紙引用)




買ってからしばらく寝かせてしまった横山さんの短編集。ずっと引き出しに入れっぱなしで
やっと発掘し読了しました。いや~、『臨場』も買ってあるので早く読まねばと思いつつ^^;
前回読んだ『影踏み』は横山さんにしては異色のオカルト要素が少し苦手だったのですが、
今回読んだコレは非常に横山さんらしい警察小説集でした。

どちらかと言えば自分より遥か上の年齢の異性が主人公となっている上、内部事情がさっぱり
わからない警察世界のお話なので一歩引いて感情移入出来るのがいいところ。
どれも素晴らしい、人間の悲しさ、孤独、強さを描いた良編なのですが、全く雲の上の世界の
お話でも同じ人間だなあと思えるのはさすが横山さん。どんな職業のお話に設定しても
掘り下げていれば、、警察界である必要はないのかな。というわけではなく、やはりその世界独特の
ルールと裏事情がリアルだからこそ読んでいて置き去り感がない。
横山さんなら普通の職業のお話でも素晴らしいものが描けそうですが、「へえ、警察って
そういうところもあるのか」なんていう面白味がプラスされてこれだけ生き生きとしたものが
完成するのでしょう。


個人的に気に入ったのは、表題作。
横山作品に登場する女性はどうも時代錯誤的な香りがする(男に頼らないと生きていけないとか
旦那に言い返せないとか殴られても我慢しているとか^^;)のですが、こういう作品を
読むと実は一番「わかっている」のは横山さんだったのかも。とも思えますね。

後は、孤独な老人の末路を描き、セントポーリアの花をモチーフに感動的に仕上げた「人ごと」
も良かった。実際、こんな展開にはならないのはわかっているのですが、着眼すべき点は
そこではないですよね。
かつてのいじめられっ子が警察官になった「締め出し」の皮肉でスカッとするラストや、
「仕返し」のような現実を受け入れる事の辛さと強さが感じられる作品も良かった。


初期作品のようなガツンと来る作品は、、と言われるとちょっと弱いかもしれませんが、
どれも平均点以上の作品でした。
そろそろ長編も読みたいな。