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ゴールデンスランバー  (ねこ5匹)

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伊坂幸太郎著。新潮社。


仙台で金田首相の凱旋パレードが行われている、ちょうどその時、青柳雅春は、旧友の森田森吾に、
何年かぶりで呼び出されていた。昔話をしたいわけでもないようで、森田の様子はどこかおかしい。
語る青柳に、森田は「おまえは、陥れられている。今も、その最中だ」「金田はパレード中に暗殺
される」「逃げろ!オズワルドにされるぞ」と、鬼気迫る調子で訴えた。と、遠くで爆音がし、
折しも現れた警官は、青柳に向かって拳銃を構えたーー。(あらすじ引用)



この物語を読んだ後、しばらく泣いていたい。最高の作品だった。
もの凄く手に汗を握る展開でもない、号泣するほどの熱い友情物語でもない。
伊坂作品がその卓抜した会話センスから「お洒落」という形容をされるのは周知の事だが、
それのみならず伏線をここまでナチュラルに、効果的に散りばめられた完璧な作品であれば
文学として一つ何かを成し遂げたと言ってもいいんじゃないか。
『終末のフール』の記事でも似た感触を感じた気がする。本来、ここまで大きな、国家を相手どった
サスペンスならばその謎解きや青柳の行く末にスポットを当て、そのめくるめく展開だけに
物語を集中させてもいいとは思う。他の作家ならそうするだろうしそれなりに面白いだろう。
私が伊坂作品に期待し夢中になるのはいつでもその文学性だ。かと言ってテーマを掘り下げず
あくまで人物(作家)の主張に終始するわけではなく(『魔王』しかり)、読者に解釈を求める
余地が必ずある。その配られた種をどう育てるかは読者次第だ。育った種はいずれは枯れる。
それが文学が担う役割ではないことも伊坂さんは知っているように思う。
感情を揺さぶり、心に残すこと。その一行に足を止めてもらうこと。


堅苦しい感想はともかく、登場人物の魅力について語りたい。
一番好きなのは青柳だったー!とか言えるわけではないけれど、個々の登場人物が
非常に生き生きとしていて、「さわやか」だったのが素晴らしかった。
どこかうわの空のような、汗臭くない友情が逆に心を震わせる。元同僚の岩崎が好きだった音楽、
元恋人晴子のたった一言の手紙、彼女を支える娘・七美の小さな奮闘(トイレ~^^;)、
轟社長の愛する花火への想い、痴漢を憎む青柳の父親、親友森田が放つ「森の声」。。。。
彼らの行動が、全て青柳に繋がる。それこそ魔法のようにするすると。

とにかくこの作品はどこを読んでも非の打ちどころがないと思った。
ラストシーンのみならず、中盤ですら泣きたくなる小説なんてそうそう出会えないよ。
普段あんまり言わないんだけど、良い作品にはやっぱ技術ってものがあるんだなあ。