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交渉人  (ねこ4.4匹)

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五十嵐貴久著。新潮社。


救急病院の患者を人質に立てこもる三人組。対する警視庁は500人体制で周囲を固めた。そして
犯人グループとの駆け引きは特殊捜査班のエース、アメリカFBI仕込みの凄腕交渉人!思い通りに
犯人を誘導し、懐柔してゆく手腕が冴え渡る。解決間近と思われた事件だが、現金受け渡しの時から
何かが狂う。どこで間違ったのか。彼らは何者なのか……。(あらすじ引用)



うおお!v(T^T)v久々に興奮しましたぞな!

プロローグが何やら意味深。男女雇用機会均等法のアピールとして警備部警護課に所属された
遠野警部が、凄腕の交渉人である石田警視正に恋心を抱く、というなんとも「カクッ」と来る
出だし。しかし、それが原因で彼女は。。という驚きの展開。

第一章から一転して、コンビニエンスストアで強盗事件が発生し、事態は犯人グループが
人質50名をとり大病院に立てこもるという大事件へ。その経緯もなかなか読ませる。
思わず心の中で「ああ、今入って来るな!」とか「たいへんだ~早く通報しろ~!」と
大騒ぎしてしまうほど。


そして始まる犯人グループとの交渉!交渉人というのは日本では馴染みがないようですが、
心理学を応用し、現場経験を踏まえ研修をしっかり受けた「交渉のプロ」が
こういった立てこもり事件に駆り出され、数々の説得により投降させる、、という
犯罪事件では外せない役割だとこのお話では再三その重要性について説明がなされます。
この凄腕交渉人、石田がかっこいい!見事に犯人の性質を分類し、的確な判断で犯人の
心を開かせてゆく……。「ダメな例」として「君たちは完全に包囲されている、おとなしく
出て来なさい」をやってしまう刑事が登場するのも引き立てている。まだ
「お母さんが来ているぞ」とやらなかっただけましですかね^^;


さて。あんまりネタを割ってしまうと未読の方の楽しみを削ぐので感想を。
いや、もうこれは言う事なかった。「犯人に告ぐ」よりよっぽど面白かった。
あらすじで想像していた展開と大きく違うのが良し。「なんだかこの犯人、何かあるぞ」と随所で
思わせるのもうまい。これがこの物語を面白くさせていると思う。
実は、あまりにも上手く行き過ぎじゃないか。。とか、この女性警部はいなくてもいいんじゃ。。
とか色々思っていたのですが、真相を知った時にすっきり。
真相そのものは大変許し難く、やりきれないものがあったのですが。
しかし、どんな問題でも100%完璧なアイデアというのは有り得ないと私は思う。
倫理、社会的ルール、そして感情。全てを考慮し、それでも答えを出さなくてはいけない。
この物語に出て来た主要人物の全てこれが人間の哀れさ、そして強さであり弱さじゃないか。


作風としては非常にストレート。
事件のスリルを楽しみながら、最後にはそれぞれが何かを感じて下さい。技術的なものは
特に指摘したい種類のものではないと思う。この真相に気付けなかった事を悔しがるような
そんなタイプのサスペンスではありません。きっと。