加納朋子著。東京創元社。
妙な振る舞いをする女の子、噂の幽霊を実地検証した顛末、受付嬢に売り子に奮闘した学園祭、
クリスマス・イブの大事件……文章修行を始めた駒子が近況報告のように綴る物語は、謎めいた
雰囲気に満ちている。ややあって届く返信には、物語が投げかける謎に対する明快な答えが！
『ななつのこ』に続く、シリーズ２作目。４編収録の連作短編集。
読んでいて、徐々に自分のボルテージが上がって行くわけでもない。
じんわりと、涙が出ない程度に、だけどしっかりと心に染み渡って行く物語だ。
ミステリー的な評価は自分の読書傾向的にはしづらいけれど、それでも別にかまわなかった。
『ななつのこ』で感じた印象と違っているわけではないが、２作目ながら今の自分がこれを
読む事が出来て良かった。刺激と斬新さを愛し、他のものには見向きもしなかった数年前でなくて
良かった。
『ぐるぐる猿』『コッペリア』でピンと来た、加納さんの作風。その期待するものと
寸分変わらない、日常の中にある毒と幻想的な雰囲気のコントラスト。
加納さんの作品は「ほのぼの」だというイメージが先行していたが、痛みを表現しない、
理想という名ばかりの薄っぺらな作品ならば私は今でも見向きはしない。
同じ形容をされる事の多い坂木司氏の作品だって、すべて痛みも壁も乗り越えて行こうとする人達の
物語なのだ。
どちらも「優しい世界」で正解だと思う。日の当たるような、という表現は結局ひっくるめて
今書いた全てを指すのだと私は信じている。
駒子と瀬尾さんの日常を私は愛して行けそうだ。
続編が楽しみ。
