すべてが猫になる

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片眼の猿  (ねこ4匹)

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道尾秀介著。新潮社。


俺は私立探偵。ちょっとした特技のため、この業界では有名人だ。その秘密は追々分かってくる
だろうが、「音」に関することだ、とだけ言っておこう。今はある産業スパイについての仕事を
している。地味だが報酬が破格なのだ。楽勝な仕事だったはずがーー。気付けば俺は、とんでもない
現場を「目撃」してしまっていた。(あらすじ引用)



道尾さんのファンをやめないで良かったよ。これ読んですぐ「ソロモンの犬」注文してしまった。
『背の眼』のシリーズがほんとに「なんでこの作家追ってるんだろう。。」と思うぐらい
好みの範疇から離れていたもんだから、さすがにコレでダメだったら見限るぐらいのつもりで
読んだのだけど。そもそも、ブログ仲間内での評判が凄く悪かった。(べるさん以外)
恒例の記事巡りをしていたら、だんだん落ち込んで来たぐらいだ。
わかったことは、私がこの作家さんには「謎解き」も「サプライズ」も期待していなかったんだな、
という腰砕けな事実。その点、べるさんともお気に入り理由は異なるかもしれない。
私はこの本のどこを探してもびっくりはしなかったのだから。
三梨の元恋人のアレは少し「えーっ」とは思ったけれど。

『シャドウ』でも言えるのだけど、私はこの人の仕掛けるサプライズをサプライズだと気付けないのが
今回は良かったみたい。「流してしまった」という意味では『シャドウ』と共通するけれど、
本書の場合は題材が気に入ったから全てを気に入った。これなら、『向日葵の咲かない夏』に
感動した自分が求めるものに一番近い。もちろんアレには及ばないが。


かと言って、絶賛かと言うとそれもまた違う。
デリケートな問題を恥ずかしげもなく「覆う」のがこの作家のテクニックで、『向日葵~』では
それがラストのサプライズにも効果的だった。
今回はそれをひけらかしてしまった。その問題と事件との絡みがアンバランスなものだから、
どうにもごちゃごちゃしている。かと言って事件の方を排除してしまってはあからさますぎ、
恋愛小説としても青春ものとしてもまるで無意味なエピソードになりかねない。

それでもラストの三梨の言葉に説得力を持たせたいなら、「じゃあ初めからやるなよ」と
ツッコミの入らない、確立したキャラクター作りが欲しかった。


あれ?^^;いや、面白かったから点数は下げないぞ。。