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最後の記憶 (ねこ3.8匹)

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綾辻行人著。角川文庫。

脳の病を患い、ほとんどすべての記憶を失いつつある母・千鶴。彼女の心に残されたのは、幼い頃に経験したという「凄まじい恐怖の記憶」だけだった。突然の白い閃光、ショウリョウバッタの飛ぶ音、そして大勢の子供たちの悲鳴―。死を目前にした母を今なお苦しめる「最後の記憶」の正体とは何なのか?波多野森吾は、母の記憶の謎を探り始める…。名手・綾辻行人が奇蹟的な美しさで紡ぎ出す、切なく幻想的な物語の迷宮。(裏表紙引用)
 
20.3.26再読書き直し。
 
初読時、あまりに不当な点数を付けていたのにまず驚いた(2.8)。まあ、当時はこの作品をやる気なく読んでいた(頭にあまり入れてなかったと思う)記憶があるので仕方ないかな。
 
主人公の森吾の母親が、奇妙な痴呆症状を発症し入院した。白髪痴呆という遺伝性を持つその病気が自分にも遺伝するのではないかと恐れた森吾は、幼馴染の唯と共に母親が幼い頃引き取られた家を訪ねる――。
 
この若さでそんな理由で大学院を休学し、夢もやる気も喪失するとはなんと暗い主人公だろう。森吾の見る幻覚や幻聴の不気味さもそれに拍車をかけている。最初は医療ホラーのような体裁で読みづらかったが、最終的には綾辻さんらしいどんでん返しも加わった幻想ホラーに落ち着いた。バッタの音や閃光の正体にきちんとした論理づけがあり、調査も一つ一つ丁寧に追っていく流れだったので長いが納得しやすい。子どもを殺害する殺人鬼の存在も恐怖を煽る。終始暗いこの物語で唯の存在が救いだったと思うが、その関係を曖昧なまま終わらせたのが残念。