すべてが猫になる

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シンデレラ・ティース  (ねこ4匹)

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坂木司著。光文社。


サキは大学二年生。歯医者が大嫌いなのに、なぜかデンタルクリニックで受付アルバイトをすることに
なって……。個性豊かなクリニックのスタッフと、訪れる患者さんがそれぞれに抱えている、小さい
けれど大切な秘密。都心のオフィス・ビルの一室で、サキの忘れられない夏がはじまる!
(あらすじ引用)



坂木さんの「おしごとシリーズ」の第2弾。いつも通りの体裁の連作短編集。

サキの働く品川デンタルクリニックはちょっと変わっている。患者を「お客さん」と呼び、
来院時には「いらっしゃいませ!」と声を掛け、診察券を「メンバーズカード」と呼ぶ。
院長の方針で、少しでも患者さんに「歯医者は怖くない」と思って欲しいからそのスタイルになった
とか。

かくいうわたくしも元は大の歯医者嫌い。4年程前、流石に痛みに堪えられなくなって、
家の近所を自転車でうろちょろうろちょろ「怖くなさそうな歯医者はないか~ないか~」と
さんざん散策し、短絡的に「新しくて、綺麗で、先生が若くて、すいていそう」な歯医者さんを
選んだ。最初に「すいている」という点に疑問を持つべきだった。
ヒドい目に遭った…………。。。
前歯の治療だったのだけど、その翌日異常なほど患部が腫れ上がり、号泣しながら会社の上司に
電話をするハメになったという思い出したくもない経験だった。
その日、別の歯医者に駆け込んで素晴らしい先生に出会い、見事復帰したが。。
「これ若い先生がやったでしょ」
「災難やったね」
と本来有り得ないお言葉まで頂戴し、完治するまで見事数ヶ月の通院を果たした。


そういう訳で、わたくしはこの品川デンタルクリニックのような「さわやかで綺麗」な
歯医者さんは腰が引けてしまうのだ。。院長、おいらのような者には逆効果ですぅ。
いや、もちろん清潔なのは優先事項ですことよ。


ところで。べるさん筆頭にゆきあやをよく知るお仲間さんに、本書はあまりゆきあや好みでは
ないかも?とアドバイスを頂いていたが。
なぜわかった?^^;
はい、女性が主人公のもの(しかも大学生)が苦手。しかも、結構ぬくぬくと育って来た
苦労知らずのいい子ちゃん。う~む、今回こそはハズすかもなあ、と最初は引き気味だったが。
そこはさすがに坂木さん。
歯医者でなくとも、社会を知らない大学生でなくとも。
全ての職種、年齢、性別に共通する、働く上での基本的な心構えが、小さなミステリの物語の
中に適度に随所に包み込まれているのだ。それがストーリーの流れの中で決して浮かず、
むしろ物語として自然にその言葉たちがフィットしていく。
坂木さんと言えば、この技。
そして、心。中でも、中年の企業戦士が登場する『ファントムvsファントム』は
素晴らしかった。なぜ、電話では愛想のいいこの紳士が医院では豹変するのか?
その謎の氷解も楽しめたが、一時期自分もコレで悩んでいた事があってかラストは非常に
爽快で胸に詰まった。


おしごとシリーズ3作中では個人的には落ちるが、なかなかの作品。ミステリ好きにも
お薦め。
この後に「ワーキング・ホリデー」を描かれたと思うと、感慨深い。
あの作品では、本作で少し自分が感じた「惜しい部分」が払拭されているんだなあ。


そして坂木さん読破v(^^)v
9月の新刊が楽しみ。