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片想い  (ねこ3.5匹)

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東野圭吾著。文春文庫。


十年ぶりに再会した美月は、男の姿をしていた。彼女から、殺人を告白された哲朗は、美月の親友で
ある妻とともに、彼女をかくまうが……。十年という歳月は、かつての仲間たちを、そして自分を、
変えてしまったのだろうか。過ぎ去った青春の日々を裏切るまいとする仲間たちを描いた、傑作
長編ミステリー。(裏表紙引用)



のっけから驚きの展開だ。かつてのアメフト部マネージャーであった女性が、同窓会で会うと
男性となって現れるのだから。性同一障害という難しいテーマを扱っており、殺人の謎解きが
その問題と関わり合っている。ミステリーとして読めばなかなかの読みごたえだとは思うが、
自分はこの作品を楽しむにはかなりの抵抗があった。

そう昔ではない時期に、『ブレンダと呼ばれた少年』(ジョン・コラピント著/無名舎)という
ノンフィクション作品を読んだ事がある。67年アメリカ、8ヶ月の双子の男の子の一人が、
手術に失敗し、女性として生きて行くが、、というもの。この作品で取り上げられていたが、
間違いなくこの本を資料にされたと思われる。事実と思えない程ショッキングな内容で、
性科学者の権威ですら思い通りの「研究結果」にはならなかったやりきれない事件だった。


その本を読んだ経験を踏まえてこの作品を読むと、どうしてもこちらは「小説」だった。
あくまでもエンターテイメント。どれほど問題を掘り下げようと、誠意を持って
取り組もうと、それはいい小説の領域から外れない、作り話。
当事者にしか絶対わからない苦しみや曖昧な心というのは必ずあるんじゃないか。
彼らの親ですら、専門家ですら彼らの痛みは理解出来なかった。
ましてや自分にこの作品から受けとめられる何かがあるはずがない。あったとしたら、
それはエゴだろう。


この作品の批判はしていない。言いがかりでしかない。
これから読まれる方は記事に惑わされずご自分の読み方をして下さい。