すべてが猫になる

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かたみ歌  (ねこ4匹)

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朱川湊人著。新潮社。


時の頃は昭和40年代。東京・下町にあるアカシア商店街の片隅で起きる様々な事件。
ちょっと切なく、少し哀しい、アカシア商店街の優しい雰囲気が心懐かしくさせる
7編収録の短編集。直木賞受賞後第1作。



さすがにこの作品集はホラーのカテゴリに入れるのはためらわれるので書庫を作りましょう。
噂通りの素敵すぎる短編集です。ハズレなし、一つ一つの物語と、アカシア商店街のひとびとを
繋いで行く優しい魔法。1編読むたびにため息、最後に静かな驚きと大きな物語が終わった事の
充足感。癒されたい時にぜひどうぞ。

↑まさかこれで終わる気か。ということで、軽く全編の感想を。


『紫陽花のころ』

アカシア商店街に越して来た若夫婦の物語。ラーメン屋で起きた殺人事件。店舗の前で、夫が
幽霊を見るようになる。実はその幽霊は。。というちょっと怖いお話。
違うんです。実はとっても哀しい優しい物語なんです。幽霊の出て来る理由、その姿。
信じられないくらい素敵な言葉が描いてあります。全部読み終わってもこの作品が一番好きです。


『夏の落とし文』

未来を告げる「天狗の落とし文」には、少年の命があとわずかである事を予言する言葉が
書かれていた。。
怖いのだけど、妙に郷愁を誘う不思議な気持ちになる落とし文です。ラストの1行が大好き。
哀しいのに、最後に優しい言葉を落として行った素敵な1編。


『栞の恋』

読書家でない少女が、古書店「幸子書房」に足繁く通うようになったのは、ある文学青年に
恋をしたから。ランボオの本を立ち読みし続ける青年と始まったささやかな文通。。
これ、大好きです。少しずつ、少しずつ心を通わせて行く直筆の手紙。ブログのやりとりも、
毎日、数日ごと、数行の語らいだから積み上がって行く信頼感や親近感があるのかな。なんて。
そして、結末が巧いなあ。若い頃の恋ってえてしてこうなるものか。


『おんなごころ』

女というものはなぜどうしようもない男に心惹かれてしまうものかーーと女心を憂う
スナックのママ。この作品はあまり好きではありません。なぜって私にはこういう種類の
女心はとっくになくして「しまいたい」からなんですけどね。


『ひかり猫』

ねこーーーーー!!!ということで^^;チャタローが可愛いのです。光の玉になっちゃうんです。
うちの子もこうやって帰って来い来い。


『朱鷺色の兆し』

レコード屋の店主が過去を振り返るお話。命わずかな人間には、朱鷺色のしるしが見える。。
あまりこういうタイプの設定で、行動した結果がこうなる物語ってあまりないのでは。
実際こうなればいいのだけど、神様が決めたルールがあるからね。と納得していたけれど、
小説なんだから矛盾に縛られる必要はないんじゃない。


『枯葉の天使』

古書店「幸子書房」の店主が登場です!あのお気楽太平に見えたおじさんが、ねえ。。
この時代設定でないと描けないお話ですね。このお話を読まないと、今までの全てのお話を
終わらせる事は出来ません。いや、今でももしかして続いているのかも。




好みで言うと、私はホラーの方が好きみたい。
優しさや哀しみが時には重荷に感じる事もあるのです。
自分にはこの作品集は余りにも良過ぎた、かな。