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盤上の敵  (ねこ4.8匹)

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北村薫著。講談社文庫。


我が家に猟銃を持った殺人犯が立てこもり、妻・友貴子が人質にされた。警察とワイドショーのカメラに
包囲され、「公然の密室」と化したマイホーム!末永純一は妻を無事に救出するため、警察を出し抜き
犯人と交渉を始める。はたして純一は犯人に王手をかけることができるのか?(裏表紙引用)



すっかり北村様にどはまり中のわたくしゆきあや。
「スキップ」も「冬のオペラ」もしばしさようなら。「街の灯」も「ターン」も当分忘れていたい。
北村様のベストはきっとこれだ。少なくとも自分はこれ。これに決定。
この作品、皆様に「読んでくれ」と声を掛けていただいたので買ったんですが、「ハテ?これは
お薦めなんだっけ?」と疑問符が後からつく特殊な作品だったようで。「面白いから」という
理由での推薦ではなかったような気配がなんとなく^^;

前知識としては、前書きに北村様から直々に「今、物語によって慰めを得たり、安らかな心を
得たいという方には、このお話は不向きです」というお言葉があることからもわかるように、
『人が死なないミステリ』『優しく美しい世界観』が先行イメージの北村様の作品とはまったく
違った作風であること。(その点は自分はOK。むしろ歓迎したい。読書はアグレッシブに行こうぜ^^)

もう一つは、私の敬愛するエラリー・クイーンの凡作(笑)、『盤面の敵』に対するオマージュ作品
であるということ。つってもアレ、実は某有名SF作家の代作で。。。(^^;)
犯人との闘いをチェスゲームに喩える、という試みと、登場人物が○○○○、という設定を
借りて来た、というだけで、もうこれは構造とミステリの手法からして本家とは全くの別物だ。
準備運動として先にアッチを読んでいる必要は全くないと思う。



前置きはさておき。


私、再三言ってますように、北村様の文章が好きなんですよね。実は、登場人物が成長したり
物語として前へ前へ突き進んだりする必要はあまり感じていないぐらいで^^;(怒らないでね~)
日本語の知識が多いのは当然としても、覚えた言葉をそのまま文章で正しく使う、ここまでは
頭のいい人なら可能ですよね。北村様は、元々の言葉の意味を知っていなければ出来ないような
言葉の技を、さりげなく文章に入れて来るんです。わかりやすい所で挙げれば、
『大は小を兼ねない』という言葉を読んだ時に凄く自分の世界が広がって行く感覚。
心の色んな所に、自分の知らないドアがあるんだな、という事を教えてくれます。


そして、ミステリーとしての驚き。自分は、あまりこういう手法では騙されないタイプなんですが
久しぶりに『やられた。。(まさか北村様に。。)』という気持ちのいい感覚を味わいました。
あのページでは、「え、え!?」と口がぽかーんと開いてしまいましたからね^^;

物語としては噂通り重たく、人間の心理が恐ろしさが前面に出ていて意外性がありました。
(北村様が。。というレベルだと思いますが。。)
でも、これは凄く内容も含め北村様らしい作品じゃないでしょうか。



しかし、しつこいけどこの人の文章。。「すきだ。すごい。」の見地だけで見回しても
こんなレベルの作家さん、他にいないよ。。。神だよー(T_T)。