すべてが猫になる

ヤフーブログからお引越し。

スキップ (ねこ4.6匹)

イメージ 1

北村薫著。新潮文庫

昭和40年代の初め。わたし一ノ瀬真理子は17歳、千葉の海近くの女子高2年。それは9月、
大雨で運動会の後半が中止になった夕方、わたしは家の8畳間で1人、レコードをかけ目を閉じた。
目覚めたのは桜木真理子42歳。夫と17歳の娘がいる高校の国語教師。わたしは一体どうなって
しまったのか。独りぼっちだーーでも、わたしは進む。心が体を歩ませる。顔をあげ、<わたし>を
生きていく。(裏表紙引用)


ミステリブログを標榜しもうすぐ3年目にしてなんと初。北村薫さん登場です。
先日行った『ルールバトン』「おすすめの本を教えてください」でご指名させていただいた
ぞうの耳さんの絶賛おすすめ本がこれ。
北村薫さんは昔2冊読んだ事があるのですが、正直「すごく好き」という感触を持てず、
でも色々読んでみようか、、と思いながら何年も経過してしまっていました。
ぞうの耳さんに背中を押されて今回の購入となった次第です。


なんとそれがまあ、人生の大どんでん返し、意外な展開は日常に転がっているもんです。
(失礼ですね^^;すいません)
この小説は素敵すぎて、私なんかの荒み汚れた心にはまぶしすぎました。
素地がないもんだから、乾き切った自分の心に染み渡りすぎて不覚にも3度号泣。
胸苦しくて読書を一時中断、なんて事がそれだけあったのです。
17歳から20代中盤、なんて人生で言うと一番濃厚で価値のある、まさにハイライトじゃ
ないですか。その貴重な時期を「スキップ」してしまう主人公、というのがまた。。。
しかも、国語教師になっていたというのが自分的につぼに入りまくり。真理子の授業内容に
まるで自分が授業を受けたかのような感銘を受けてしまったもんです。いやもう、こんな先生に
教わりたかった。

時代をスキップする、という設定自体はよくあるのかな、と思ったのですが、
42歳の視点から当時の自分を顧みる事で成長し、元の時代へ帰る、という所に物語の焦点が
なかった事が自分が本書を評価している大きなポイントです。自分だってもし17歳から
突然42歳になっちゃったらその心の空洞は凄いものがありそうですからね。
読む自分が高校生でもなく、既婚者でもなかった為か、両方の気持ちを汲む事が出来たのも
幸運かも。17歳のまぶしさには敵わないけれど、32歳の今、まだまだ未来は広がっている、
そんな気分でいっぱいです。17歳のバカだった自分よりは断然今の自分の方が好きだけど、
その過去を失う事は自分を失う事と同じ。あの頃の自分が描いていた理想の自分には
ほど遠い今だけど。

自分にはそういう積み重ねや思い出、寄りかかるものがあるからと考えると、
そんな過去の土台を失ってしまった主人公の真理子の強さには憧れ以上の気持ちが
湧きあがります。このラストシーンにはなんの不満もない。天井です。


いや、ほんと、北村さんがここまで面白いとは思ってなかった。
もしや最高傑作を読んでしまったのではないか……?と心配にもなるけれど、
この作家さんには芦原さんぐらいのオンリーワンな個性と文学性を感じました。
いやいや、無知でお恥ずかしい。。


ぞうの耳さん、どうもありがとうございました(*^^*)
またよろしくですv