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ラッシュライフ  (ねこ4.8匹)

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伊坂幸太郎著。新潮文庫

泥棒を生業とする男は新たなカモを物色する。父に自殺された青年は神に憧れる。女性カウンセラーは不倫相手との再婚を企む。職を失い家族に見捨てられた男は野良犬を拾う。幕間には歩くバラバラ死体登場ーー。並走する四つの物語、交錯する十以上の人生、その果てに待つ意外な未来。不思議な人物、機知に富む会話、先の読めない展開。巧緻な騙し絵のごとき現代の寓話の幕が、今あがる。
(裏表紙引用)


22.2.17再再読書き直し。

 

3度目の再読。再読の2007年からかなり年月が経過しているので、3度目といえどやっぱり内容はラスト1行以外何も覚えていないという。伊坂ベストを作れば3位以内に入れるだろう思い入れのある作品であるというのに(最初にカンだけで単行本を買った、最初に触れた伊坂作品だというのも理由の一つ)

 

自分がおそらく最初に触れた「群像劇」であり、全く接点のない複数の登場人物たちの行動が、最後にすべて繋がってゆく感動――それを得られた記念すべき作品でもあるのだ。心のない画商に雇われくすぶっていた画家の志奈子、伊坂作品ではおなじみの泥棒・黒澤、宗教にハマる大学生河原崎、愛人と共に愛人の妻を殺そうと企む精神科医京子、バツイチで失業者の豊田。バラバラ殺人事件や彼らの人生に必ず登場する老犬などがキーとなっており、それぞれの行動がすべての登場人物に起こる出来事に絡まっていく。バラバラ死体が繋がって動くなど一見ファンタジーな世界観ながらも、フタを開ければパズルのピースが一つ一つ嵌っていくという、そのさまは魔法のようでありながら、ロジカル。高橋という教祖の存在だけが終始ミステリアスなままだ。

 

誰しもが1日だけ主人公になれる。犯罪に手を染めながらも、前向きに人生を切り開いていく豊田や他力ながらも人生のきらびやかさに救われる志奈子、飛び降り自殺した父親の呪縛から解き放たれる河原崎。平凡な人間が平凡でない体験をして日々が動き出していくさまは、決して綺麗事だけではないけれども、やはり人と人は関わりあっているのだなあと洗われる気持ちになれる。前作オーデュボンの祈りの登場人物・伊藤とカカシを思わせる一幕があるのも嬉しい。