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手紙 (ねこ4.8匹)

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東野圭吾著。文春文庫。

強盗殺人の罪で服役中の兄、剛志。弟・直貴のもとには、獄中から月に1度、手紙が届く……。
しかし、進学、恋愛、就職と、直貴が幸せをつかもうとするたびに、「強盗殺人犯の弟」という
運命が立ちはだかる。人の絆とは何か。いつか罪は償えるのだろうか。。(裏表紙引用)


読んでいてこんなに苦しい小説もそうはない。光が見えない。何の罪もない1人の青年が
人生の1番勝負の時に過酷な運命を背負ってしまう。彼は歌の才能があり、勉強が優秀で、
仕事も出来る。だからこそ辛い。いつまで続くのか、ちょっとは楽にさせてやれないのか、と
東野さんを責めたくなった。だって当事者でない自分に何が言える?何もわからないし、
かと言って目を背けられない。加害者側から描かれた小説ながらも、「職場に『殺人犯の兄を
持つ人間』が現れてしまった普通の人々」の立場からも訴えかけて来る。自分の友人や
恋人の兄に犯罪者がいたらどうするか?どういう態度をとるべきか?まさか面と向かって
迷惑だ!と罵倒し態度を露骨に変えるよ、という人間もいないだろうが、じゃあ
「そんなことは彼自身の人間性とは関係がない!何も気にするもんか」と言えるだろうか?
ほとんどがその中間、自分の正義感(そして罪悪感)と恐怖のはざまで揺れながら
微妙な態度で接する事になるんじゃないだろうか。

生きていれば理不尽な事もたくさん起きる。なぜ自分が?と逃げ出したくなる事もある。
読者に大きな問題提起を掲げる東野さん。作者は答えを描いていないけれど、
東野さん自身の考え方のようなものは伝わって来たように思う。
犯罪を憎むというしごく当然の事と、犯罪によって身内が苦しむ事も含めて罰だ、という
重い事実と。
東野さんはやっぱ凄いな。
自分なんてこんなに思う事があっても碌な感想一つ書けやしないんだもんな。。
これが傑作かどうかはわからないし、好きとも言えないんだけど。。