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誰でもない男の裁判/The Trial of John Nobody (ねこ4匹)

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A・H・Z・カー著。晶文社

山口雅也氏、エラリー・クイーン氏大絶賛。2004年本格ミステリーベスト10第5位作品。
異才による夢の短編集が実現。全8編収録。


帯やらあとがきやらで引くほどの大賛辞が贈られているこの作家。山口氏のエッセー
『ミステリー倶楽部へ行こう』でも大々的に紹介されているらしい。そんな事もつゆ知らず
「面白いらしい」という理由だけでお取り寄せ。手元に来てその風格に少しびびるわたくし。
とりあえず、気に入った順に感想を軽く。

『黒い子猫』
 1編目収録。牧師が自宅で娘の可愛がっている猫を踏み殺してしまったお話。自分としては
 それだけで衝撃なのだが、この息詰まる展開と牧師の精神はグロテスクであって身近にある
 感覚かもしれない。ラストにこう来るのが意外だった。ずばり、自分は本作を読めただけでも
 本書を手に取った価値が十二分にあったと思う。

『猫探し』
 芸達者の猫を探してくれ、という依頼を受けた探偵。これは反則だ。猫好きにこんなの
 読ませたら泣いてしまうに決まっている。

『ジメルマンのソース』
 これと言って目新しくはないお話だと思うが、こういうユーモアものは大好き。軽く読めるのが
 いいし、可哀想なんだけど笑ってしまう。どっちもどっちじゃない?

『ティモシー・マークルの選択』
 友人の轢き逃げを見過ごしてやるか、正義を貫くか。。というお話。リドル・ストーリー
 形式になっているが、良識があればどちらを選択するか想像はつく。しかし、もしや。。と
 思わせる描き方でもあると感じて気に入った。

 ここまでの4作は絶賛したいと思う。

『虎よ!虎よ!』
 おそらく人気が高いと思われる作品。すいません、詩の意味がストレートに頭に入って来ないので
 自分向きとは言い難いかも。

『誰でもない男の裁判』
 表題作であり、山口氏もこの作品を世に送り出すための作品集だった、とまで。
 凄さは感じるのですが、自分がクリスチャンではないためかどうか、ピンと来ない。
 聖書の引用とかが苦手なんですね、自分。神がどうのとか感覚的になんだか遠い。。
 ちなみに映画化された模様。

『市庁舎の殺人』
 本格ミステリです。ラストの人間同士の心の機微は熱くなるものがあるのですが。
 しかし、「え?これがワースト2?」と今びっくりした程度には面白かったのですよ。
 
『姓名判断殺人事件』
 言葉遊びものって苦手なんですよ。。本格ミステリが来ると自分は苦手になってしまう模様。


バラエティに富んでいる、と言えば褒め言葉なのですが、(いや実際そうですが)
作家としての安定感はあまり感じなかったというのが率直な感想。
好みが大きく分かれてしまったのか、当たり外れの差が激しかった気がしますね。
しかし作品集としては相当ハイレベル。
わかりやすく言うと、
山口さんの『マニアックス』『ミステリーズ』がお好きな方ならお薦めです。