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白い部屋で月の歌を (ねこ4匹)

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朱川湊人著。角川ホラー文庫

ジュンは霊能力者シシィのもとで除霊のアシスタントをしている。仕事は霊魂を体内に受け入れる
こと。彼にとっては霊たちが自分の内側の白い部屋に入ってくるように見えているのだ。ある日、
殺傷沙汰のショックで生きながら霊魂が抜けてしまった少女・エリカを救うことに成功する。だが、
白い部屋でエリカと語ったジュンはその面影に恋してしまったのだった……。(裏表紙引用)
第10回日本ホラー小説大賞短編賞受賞作。(『白い部屋で月の歌を』)


『都市伝説セピア』ほどの衝撃はないが、それはこちらを先に読んでいなかったせいかも。
あの異常に突出した作品群の完成度はやはりまぐれでなく実力だった。
インパクト重視、新感覚の文体のみを武器にし消えて行くホラー作家ではない。
物語全体に漂う哀しさと、グロテスクな美しさが内包した世界観はとても恐ろしくて、
それでも限りなくピュアだ。
オチはベタだなおい、と思いながらも、ラストシーンは心の中に大事にしまっておくぞ。
こういうのが好きな自分はまだまだ捨てたもんじゃないな、とか。。。


『鉄柱』2編目中編。
不倫の挙句『島流し』として田舎の営業所に飛ばされた雅彦は、妻の晶子と共に新居に引っ越した。
必要以上に親切な町の人々に不審を感じながらも、田舎暮らしも悪くないと前向きで穏やかな
気持ちを持つようになった。このまま平凡に時が過ぎてゆくはずだったが、ある日近所の
老婆が公園で首吊り自殺をしている現場を目撃し。。


こちらを表題作にしても良かったんじゃないか?と思える。(まあ受賞作に譲るべし。。)
町にある鉄柱の正体、町民の親切心の裏にある歪んだ黒い精神、物語としての完成度。
「自殺」を「満足死」と呼び奨励するという町の風習、集団心理の恐ろしさと閉鎖された空間で
発現する人間の奥深い闇の部分を真っ向から描いている。もちろん自分が素晴らしさを感じるのは
「死」から「生」の本質までを描き切っているからだが。
どこかで見たようなシーンもあるし一歩間違えば「焼き直し」のテーマなのだが。


とにかくこの人と恒川さんは今後注目したい。きっと二人共安定した実力を発揮しそう。