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夜市 (ねこ4.4匹)

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恒川光太郎著。角川書店

第12回日本ホラー小説大賞受賞作。史上最高傑作。← と、帯に。。。

大学生のいずみは、高校時代の同級生・裕司から「夜市にいかないか」と誘われた。裕司に連れられて
出かけた岬の森では、妖怪たちがさまざまな品物を売る、この世ならぬ不思議な市場が開かれていた。
夜市では望むものが何でも手に入る。小学生のころに夜市に迷い込んだ裕司は、自分の幼い弟と
引き換えに「野球の才能」を買ったのだという。野球部のヒーローとして成長し、甲子園にも
出場した裕司だが、弟を売ったことにずっと罪悪感を抱いていた。
そして今夜、弟を買い戻すために夜市を訪れたというのだがーー。(あらすじ引用)


なんて魅惑的で哀しげで素敵な小説なんだ!
文章は極めてシンプル。中編だけに出だしで入り込めなかったら残念な事になるものだが、
これはオッケー。冒頭の2~3ページだけでもう「キた!」と確信した。
ただ、シンプルを長所として挙げたが新人ゆえの語彙の少なさ、「ここ、もっと違う言葉が欲しい」と
思わせる箇所も多々あるのだが内容が良過ぎるゆえに目立ってしまったというだけだろう。
ホラー小説を愛している自分、特にこの幻想的ホラーというジャンルでは
文学性を重視する。だからいつも褒めるものは乙一や横メル、朱川湊人のような個性光る
全ての文章家が手にしたい武器を持った作家に偏るのだが、本書は「文章力」で下がる分
精神性を掘り下げた(人間味とも言い換えられるか?)ドラマ性を持っている。
(いや、文章力がないとかではないです。)
うん、確かに最後にこう落として来るとは想像していなかった。

しかし2編収録のうち、自分が気に入ったのは『風の古道』の方だった。
世界観は『夜市』と共通しているのだが、驚いたのはラスト。
1編目の『夜市』のポジティブな幻想を真っ向から否定するような、対極とも言える
エンディング。随分と冷え切った、厭世的なのが逆に強烈な印象を残すメッセージ。
こういうテクニック、無条件で好き。

ああ、いい時間を過ごした。
この感動を1人でも多くの人と分かち合いたいのでお薦めしておきますv
この本の存在を教えてくれたしろねこさん、どうもありがとうです(*^^*)