すべてが猫になる

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切れない糸 (ねこ4.2匹)

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坂木司著。東京創元社

新井和也の家は商店街によくある普通のクリーニング屋。その「アライクリーニング店」では
父親と母親、アイロン職人のシゲさん、パートの松竹梅トリオで店を盛り立てている。だが、
就職活動が困難を極める時期に和也の父親が突然死。和也は父の跡を継ぐ事を余儀なくされた。
初めての重労働と亡き父親の精神的重圧の中奮闘する和也だが、おかしなお客さんが次々
現れてーーー。


昨年末からどはまり中の坂木さん。期待の新シリーズという事で読む前から心臓ばくばく。
3冊読んで来たと言っても全て同じ「引きこもり探偵」ものなもんで、他の作品なら自分に
合うかどうかちょっと不安も抱きつつ。まあ、べるさんがプッシュしてくださっていたので
大丈夫だろうとは思ってましたが。

これ、作風が「引きこもり探偵」とまんま一緒ですやんか(笑)。
いや、それでいいんですけど、連作という体裁、人と人との触れ合い、友情。精神的に成長途中の
主人公。……が、仕事や商店街の人とのかかわり、事件を通して成長して行くというスタイル。
だからこういうの好きなんではまるに決まってるじゃないですか。。
共通しているのは「心の痛み」と「人間の暖かさ」「社会の一員としての責任感」。
共感するとかでなく、紙の上で生きている登場人物達がいかに立体的であるか。こういう作風の本を
読むにあたって自分にとって大事なのはその一点。
最初は慣れない仕事にミスを連発し、父親に反発心まで芽生えていた和也が徐々に
その父親に似て行く様、仕事へのこだわりとプライドを備えた上でお客さんの一歩奥へと
入り込む事により関係を築き上げて行く姿、お互いの足りない面を補うのでなく
吸収し合って近づいて行く友情。

胡散臭くて結構、癒し系の一言で片付けられたくはない。地に足のついた、これも一つの
作品世界なのだと思っている。