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我らが隣人の犯罪 (ねこ3.7匹)

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宮部みゆき著。文春文庫。

5編収録の短編集。

中学1年の誠が住むタウンハウス。その隣家に住む女性が飼っている犬の鳴き声が終日凄まじく、
家族や近隣の悩みの種だった。そこで誠の叔父が立てた計画とはーー「我らが隣人の犯罪」。

 「屋根裏の散歩者」を思わず連想してしまうある一家の身に起きた大きな事件。殺人が起きないのが
 意外だったが読み始めてすぐに「これは面白いぞ」と引き込まれる事になった。デビュー作だと
 言われなければとてもそうは思えない。かなり迷惑でちょっと暖かいサスペンス。


ある雷雨の晩のこと。両親の外泊中、1人家で留守番をしていたサトシのもとへ、謎の女性が
訪ねて来た。彼女はかなり横柄な態度で、しかも赤ちゃんを連れている。この子の父親はサトシの
父親でもあるというがーー「この子誰の子」。

  これはいい!いきなりのとんでもない展開に目を瞬いた。よくある(かもしれない)設定でも
  まるで初めて接したパターンのようで、それでいて定番でない「泣かせ」のラスト。


ある小学校の6年1組の生徒が自由研究に選んだテーマは「サボテンの超能力」について、という
面妖なものだった。保護者達は当然学校に抗議するがーー「サボテンの花」。

  軽くミステリー仕立てとなっているが、そっちは多分どうでもいい。苦悩する教頭先生が
  見もの。このあたりからハンカチをご用意。


ある披露宴で司会に抜擢された男。なかなか届かない祝電がようやく届き、衝立の奥でチェック
していた男はある一通の祝電を読んで顔色が変わった。そして読まれなかった祝電の謎を残したまま
男は後日他殺体で発見される「祝・殺人」。
 
  タイトルといい、ちょっと赤川次郎みたいだがこれが一番ミステリらしいミステリ。そこは
  普通に感じたが安易でない動機と背景は宮部さんらしい。


推理作家の海野に相談を持ちかけたのは年の頃は50代の男性だった。男性は海野に言った言葉は
「わたしを殺してくれ」というものだったーー「気分は自殺志願」。

  これが気に入りましたね~。この男性の抱える問題は繊細で深刻なんですが、彼を助けるために
  色々とがんばる海野達がなんだか一生懸命でほろり。。実際こんなうまくいくわけないですが、
  「どういう方法で」に焦点を絞ればかなり面白い。



どれもかなりの水準で甲乙つけられない傑作集だと思いました。総じて感じた事は、宮部さんの
短編はどれも長編を読んだくらいの濃密さがあるのに関わらず、贅肉がない所。読みやすく
わかりやすく、さらに小説として文章に味わいがあるんですよね。
凄い作家は最初から凄いと再確認。