すべてが猫になる

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ステーションの奥の奥 (ねこ3.7匹)

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山口雅也著。講談社ミステリーランド

陽太は小学六年生、最後の夏休みを迎える。作文に「吸血鬼になりたい」と書いてしまった事が
母や先生達の間で波紋を呼び、カウンセラーを受けさせられたり、進学塾の予定を詰め込まれたり、
結構さんざんな日々。そして夏休みの自由研究は簡単に終わり大人受けしそうな「東京ステーション
ビル」の改修工事に伴うビルの取材、というテーマを選んだ陽太。陽太の父の弟である、読書家の
夜之介叔父さんが手伝ってくれる事になったのだがーーー。


題材が独特で面白い。研究のテーマを選び、事件に遭遇するに至るまでのシチュエーションが
しっかりしている為、物語にすんなり入り込める。夜之介叔父のキャラクターも無理のない程度に
面白く愉快だし、陽太のちょっとませた性格も物語を動かす役柄に合っている。ガールフレンドの
留美花ちゃんもちょっと変わり者の文学少女でお似合いの二人だ。
ある程度ステーションビルと吸血鬼という背景を掘り下げているので理解しやすいし、
適度の不気味さとそそられる謎が広げられ、レベルの高い物語になっていると感じる。
「怪盗グリフィン~」くらいの完成度は見込めるな、と期待させてもらった。
面白いと言っていいと思う。

気になった所と言えば、対象年齢を考えるとちょっと文章がカタい印象を受けた。
小学高学年ならば1、2年早いかな、と思ったのだがどうだろう。
そして後半。おいおい。確かに予想外の展開だけれど、「これは笑う本なのか?」と
戸惑ってしまった。いや、自分としてはアリだけど前半少し疲れてしまったので
「子供向け、ってこういう事だったっけ?」と意地悪に受け止めてしまったかも。

とは言ってもまあ気になったのはそれぐらい。
メッセージ色が強いと言った事を冴さんから聞いていたのだが、確かに随所に子供への
願いのようなものが織り交ぜられている。私がよく「ストレートなメッセージ」と言うのは
「型に嵌まった」という批判的意味も込めているのだが、本書の場合は私の感性をクリアしている。
これは山口氏の本音だろう。自身が経験し、実践し自信を持って放つ言葉ならば潔い。